各転生者とガストンと妻の影

〈エレノアの場合〉


 ガストンと1人の男がテーブルを挟んで対面に座る。この男名をメッツという。このメッツエウロパ王国の騎士団の元兵である。

 ガストンが辞め、冒険者として名が広がり始めるとガストンを慕っていたメッツを始め数人が騎士団を退団して、チームを作ってしまったのだ。

 正直ガストンは困っていたが、そんなことなど知らず、メッツは真剣な顔でテーブルに資料を広げガストンに説明している。


「今回のクエストは、2人一組の4チーム合同で行います。こちらが他のチームになりますが……」


「これは?」


 広げた資料の中から1枚を手に取るガストン。


「ああ、巧血、エレノアですか。噂だと強いらしいですが、なんでも自らの体を切って血を流して戦うとか。

 それと相方のシェルです。まだ冒険者になって間もないとのことです。他のチームはそれなりの手練れですが、この2人はどうなんでしょう? 正直未知数ですね」


 エレノアとシェルの資料を渋い顔で見ていたガストンの前に人影が立つ。


「えーと、ガストンさんと、メッツさんであってますか?」


 若い女性の声にガストンは落ち着いて振り向くと、その姿に目を見開く。

 若い女性が2人、1人は薄いテンプレートに身を包み長袖にハーフパンツに長めのブーツ、露出控えめな出で立ちだが、もう1人のゴシック調のミニドレスを着る露出多めな女性エレノア、こちらに目がいってしまう。


 実際、周囲の男たちの視線を集めている。その全てが性的に見る、舐めるような目線だが、ガストンは違う。

 真剣に見つめる。よこしまな考えが過るとかではない。それしかない故にその瞳は純粋で真っ直ぐなのである。


「ああ、そうだ」

〔副音声〕【露出的な意味でも素敵だが、何よりもあの太もも!? あれに挟まれたい。ああ挟まれたい。挟んで下さいと叫びたい!】


「あってて良かった。私エレノアって言います、でこっちがシェル。今回チーム合同だから挨拶にきました。よろしくお願いしますっ」


 軽い感じで挨拶をするエレノアと、丁寧に頭を下げるシェルに対しガストンも立ち上がり丁寧に頭を下げる。

 それを見て慌ててメッツも頭を下げる。彼は騎士団時代の悪い意味でのプライドが抜けきっていない自分を恥じると共に、かつての輝かしい経歴を持ちながらそれを鼻に掛けないガストンを尊敬するのである。


〔副音声〕【今回のクエストは楽しくなりそうだ♪ 頭下げると足が見えるから良いんだよな。オレって無駄に背が高いから嫌になるわぁ。

 エレノアの足良いわぁ~ほんと良いわぁ。

 おっ!? シェルのチラッと見えるのも味わい深いな。幸せだなぁ】


 元王国騎士団の分隊長の肩書きを知っているエレノアとシェルは、ガストンの丁寧な対応に驚き感心するのであった。



 * * *



〈イリーナの場合〉


 防具や武器をフル装備したガストンとメッツが3人の男を連れて村の往来を歩き村の門へと向かう。その門の前に立つ2つの人影見つけ、そちらに向かって進んでいく。


「リベカ・シペトリア様とイリーナ・ヴェベール様ですね? 私、メッツ・オーリオ。こちらが、リーダーのガストン・リュングです」


 メッツの自己紹介に合わせガストンは頭を下げ挨拶をする。


「この度は5星勇者との協同戦に我々を指名していただき、光栄です」

〔副音声〕【リベカ様は評判通り美しさと気品を兼ね備えている。冒険者内でも人気ナンバーワンなのも納得だな。

 潜りたくなるふわふわのスカートは言うまでもなくポイント高いが、何より戦場にスカートを履いてくるその行為! 巷では聖女などと呼ばれているが、その行為こそ尊い!

 まさに聖女!


 隣にいるのがイリーナ様。ふむ、粗暴で喧嘩っぱやいと聞くが……】


「そんなに畏まらなくていいですよ。わたくしたちも一冒険者なんですから。それにガストン様の噂は兼がね聞いております。こちらこそ来ていただき光栄です」


 聖女に相応しい笑顔にガストンの仲間たちが心を奪われる中、ガストンはイリーナの手に集中していた。


「イリーナ様、もしかして楽器を扱われますか?」

〔副音声〕【あの大剣を扱う武骨な手。だがあの長く繊細な指先、強さと繊細さを兼ねている。この手……一言でいうなら舐めたい!】


「あ、ああ、まあな。能力の関係から、まあ仕方なくな。んなことどうでもいいだろ」


 イリーナは自分の手をヒラヒラとさせ、めんどくさそうに答える。


「気にさわったのでしたら申し訳ありません。ただ美しい手でしたのでつい」

〔副音声〕【綺麗な手! 触りたい! 世間では5星勇者で一番人気がないとか、ハズレとか言われてるけど見る目ないな。

 オレから言わせてもらえれば、この鍛えられた肉体美、その中に秘めた淑やかさを感じさせる素敵な女性だ!】


「な、お前なに言ってんだ! もういい、あたしは先にいくぞ! リベカ、後は任せた」


 顔を背け立ち去るイリーナを見て、クスクス笑うリベカ。


「ガストン様、お気になさらないで下さい。イリーナは恥ずかしがっているだけですので」


「気にさわるなど、とんでもない」

〔副音声〕【気にさわる? とんでもない! 恥ずかしがる姿も可愛いなこれっ! やはりオレの目に狂いはない!!】


 去り行くイリーナの足を凝視するガストンの純粋な視線を、リベラはさすが王国騎士団でも名高いガストンだと、強くて礼儀正しい、そして偉ぶらない態度に皆が惚れるという噂も本当なのだと、噂もときには当てになるのだと感心する。



 * * *



〈マティアスの場合〉


 戦場に炎と風が舞う。


 冒険者たちは基本魔法を仕様する。故に戦場に炎、風、雷、水、土等が飛び交うことは決して珍しいことではない。


 だが今ガストンの目の前で広がる炎と風の共演は他のものたちとレベルが違う。

 5星勇者の2人、エッセル・ブッケルが放つ美しくも無慈悲な業火と、マティアス・ボイエットの鋭く冷たく吹き荒れつつも儚さを感じさせ吹き荒れる風。


 互いの足りないものを補い、風は炎の無慈悲さをのせ大きく広がっていく。


 騎士団にもそれなりの使い手はいた。だがこの2人は格が違う。

 その圧倒的な光景にガストンは心を奪われ、自分も炎や風を使ってみたいものだと、2人の姿に憧れをいだくのだった。


 壊滅的なダメージを負った魔族軍の数人が、最後の力を振り絞りエッセルとマティアスに向け放つ魔法は、ガストンの大盾によりあえなく霧散してしまう。


 一矢報いようとしたその攻撃を意図も容易く掻き消され心の折れた魔族に、炎の刃が振り下ろされる。


 * * *


「助かった。礼を言う」


 戦いが終わった後、ガストンの前に音もなくやって来たマティアスが、頭を下げてお礼の言葉を述べる。


 短い言葉だが、雑というわけでもなく、話すのが苦手なのだろうなと思わせる話し方をする。


「いつも通り盾で攻撃を防いだだけです。それよりマティアス様こそ素晴らしき風の舞い、見惚れました」

〔副音声〕【いいな、いいなっ! オレも風使いたい! 火も使えたら更にカッコいいだろなぁ~。あぁオレも華麗に戦いたいな】


 少年のような純粋な眼差しを向けるガストンに、人として信頼に足る人物ではなかろうかと、マティアスはガストンに対し好印象を持つのだった。



 * * *


 とある立派な屋敷の大きな台所に、トントンとまな板の木をリズムよく叩く包丁の音が心地よく響く。ガストンは台所で、その包丁を叩く女性の背中に向かって話しかける。


「血を使うとはなんとも不思議な光景だった。臨機応変に戦う姿はまさに巧血の名に相応しいと思ったな。

 それから5星勇者とも今回仕事をしたのだが、さすが皆が最強というだけあってその強さに見惚れてしまった。炎と風の共演も美しかったが、音撃を操るイリーナ様と水を操る──」


 ドンっ!


 包丁が突然まな板を叩く音で会話が中断される。


「あ、ごめんなさい。ペポカボチャが固くて力が入っちゃった」


 背中を向けていた女性は、包丁を持ったままガストンを向き無邪気さの混ざった笑みを見せる、この女性は、ガストンの妻ミレーヌ。

 ガストのリュング家とミレーヌのローゼ家の家同士が取り決めた結婚ではあるが、この2人幼い頃から知っている所謂幼馴染みである。


 17で結婚して今26歳のガストン。結婚歴は約9年であるが、3歳のころから知っているミレーヌとは23年程の付き合いとなる。


「あ、ああ」


 故にガストンは分かる。ミレーヌは今ちょっと機嫌が悪い。


「どうしたの? 話の続きしても良いのよ」


 包丁を数回振り、素振りをするミレーヌが微笑みながら話の続きを促してくる。彼女も分かっている。


「い、いや話は以上だ」


「ふふ、変なの。別に良いのよ、巧血の子、エレノアさんだったっけ? 足が綺麗だなぁとか太もも触りたいなぁとか思ってみたり。

 5星勇者の女性陣の手が綺麗だなあとか、なんならかぶりつきたいとか……うん、良いんじゃないかしら? ねぇ、ふふふ」


「え、オレそんなこと言ってないけど……」


「ええ、言ってないわね」


 しばらく2人は見つめ合い、沈黙が続く。


「ごめんなさい」


「なんで謝るの? ふふ、変なの」


 ミレーヌは包丁を華麗にくるくると回すと、まな板の上のペポを一刀両断する。


「久しぶりに家に帰ってきたあなた様の好きなペポパイを作るために、今日は息子たちを預け、使用人に休みを取らせ人払いしたんですから、ゆっくり話しましょう。楽しみね」


「あ、ああそうだな……」


 昔からミレーヌはガストンが何を考えているかをほぼ正確に言い当てる。視線や表情で何を考えているか大体分かると断言するミレーヌ。

 その言い知れぬ圧に言い様のない不安を感じながらも愛する妻の背中を見つめ、長い夜になりそうだと覚悟する。


〔副音声〕【怖いけど可愛いんだよな。料理をするとき、髪を上げて見えるうなじとかドキドキするし、心なしかスカートもいつもより短いような……脹ら脛が見えるのはポイント高い】


〔副音声〕【ふっふっふ、気になってる、気になってる。視線が純粋過ぎて皆には分からないでしょうけど私には手に取るように分かるのよ。

 脹ら脛は下から2センチほどチラ見せしつつ、項もアピールと。


 それにしても今日もあなた様は凛々しくてカッコイイわ。あのたくましい腕! はぁ~ため息しかでないわねホント。年齢を重ねる度にカッコよくなっていくとかなんなの、反則じゃない。

 早くペポパイ作って食べる姿を眺めなきゃ! きゃっ、恥ずかしいっ!】


 この2人一緒に過ごしても沈黙が続くことが多い。周囲には寡黙な夫とそれを微笑みながら見つめ支える妻に見えるらしいが……。



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『転生の女神シルマの補足コーナーっす』


 みんなの女神こと、シルマさんが細かい設定を補足するコーナーっす。今回で10回目! めでたいっす!!


 ※文章が読みづらくなるので「~っす」は省いています。必要な方は脳内補完をお願いします。


 ガストンはリュング家の次男であり家を継ぐ立場ではなく、自力で騎士団に入っています。その当時は家を継がないガストンの生活の行く先は不透明であったが、そんなガストンについていくと他の縁談を蹴ってローゼ家を飛び出してきたミレーヌ。


 娘の勝手な行動に当初は勘当寸前まで関係は悪化したが、ガストンが出世しと名声が広がると手のひら返しをしたとか。

 次男の身でありながら、本家よりも有名なリュング家として名を轟かせるわけです。


 ちなみにガストン、生涯浮気をしたことはありません。何だかんだで妻を愛していたのですが、ミレーヌの無言の圧による束縛に自身の欲求を押さえ続け生きてきた結果今に至るというわけです。


 今は欲望に忠実に生きていますが、手を舐める等の行為は犬だから許される。そして視線が低いのを楽しんでらっしゃるようです……。


 転生失敗?


 次回


『水族館へ行こう!』


 詩は大のペンギン好き。シンプルな部屋に唯一置いてあるぬいぐるみはもちろんペンギン。

 ペンギンならずっと見ていられると豪語する彼女。


 なら誘うしかないでしょ! 


 いくっす! 男を見せろっす! 死ぬ気で行けと言う詩の親友から得た情報を元に、彼は決死の覚悟をするっす!


 そんな日常のお話っす!















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