クッキングアラさん

アラさんの3~5分クッキング

 エヴァンジェリーナ・クルバトフ。通称をエーヴァと呼ばれる彼女はロシアから遥々、日本へやって来て、詩と共に宇宙人を討伐している。


 前世の因縁で、詩との再戦を求め日本に来たエーヴァだが、そんなことを両親たちが知るわけもなく、可愛い娘の日本へ行きたいとの希望を叶える為、留学させたわけである。


 そのエーヴァのお世話役として、ロシアから一緒にやって来たアラ・ベロノゴフ。アラと呼ばれる彼女はスーツとメガネの似合う、美人さんである。


「アラ! これを!」


 近所のスーパーに買い物に来ていたアラの前で、手に持ったカップ麺を掲げる銀髪の少女こそ、アラがお世話するお嬢様、エーヴァである。


「お嬢様、どうされました?」


「これを見て欲しいですの」


 アラがいそいそと駆け寄ると、エーヴァがカップ麺に記載されている文字を指差す。


「え、え~と……」


 日本に来るにあたって 日本語の勉強はしたものの、漢字はどうにも苦手なアラが四苦八苦していると、エーヴァが声に出して読んでくれる。


「『出汁だし薫る! あとのせザクザク蕎麦』と書いていますの」


「あとのせザクザクですか?」


「ええ、そうですわ。こちらの説明によるとカップ麺が完成した後に、写真のかき揚げを乗せると、ザクザクした食感が残ったまま食べれるそうなのですわ!」


 テンション高くカップ麺を頭の上に掲げ目を輝かせるエーヴァを見て、今晩のメインディッシュを決めるアラ。


 エーヴァの実家はロシアの大富豪であり、ロシアにもカップ麺は存在するが、実家で禁止され、口にすることのなかったエーヴァは、日本に来てすぐにカップ麺を食べたいと所望したのだ。


 実家では禁止されているカップ麺であるが、愛しのお嬢様の頼みを断れる訳もなく、毎週金曜日の夜だけは解禁となる。

 この日は美容や、健康を無視し、エーヴァの好きなものを食べていい日となっている。もちろん実家には内緒である。


 本人は凄くこの日を楽しみにしているみたいで、ジャンクフードや、カップ麺などを見つけてきては興奮気味にアラに報告してくるのだ。

 今もカップ麺を見て、その味に想いを馳せるエーヴァの姿に癒しを感じながらアラは、エーヴァから受け取ったカップ麺をカゴへ入れる。



 * * *



 アパートに帰ったアラは、買ったものを整理するとカップ麺を手に取る。


 手をメガネにかけ、ピントを合わせながらカップ麺の説明を真剣に読むアラは、時々読めない漢字をエーヴァに聞いてメモを取り始める。


「お湯は420mlと……この辺りは他のカップ麺と同じようですが、問題はこの、『あとのせのかき揚げ』の存在です。


 後に乗せると簡単に言いますが、具体的にどのタイミングなのでしょう。ここをしくじることは、このカップ麺を全否定することに成りかねません!」


 キッチンで眉間にシワを寄せ真剣に考えるアラの横で、調理台に寄りかかりそんなアラを楽しそうに見るエーヴァ。


「ここは他の方の意見を聞いてみましょう」


 そう言ってスマホを取り出すと、電話を掛ける。


「もしもし、お忙しいところ申し訳ありません。はい、詩さんにお尋ねしたいことがありまして、電話した次第で、え! あっ、もっとフランクにですか? ええ、はい、頑張ってみます。


 えっ! 出来てない!? そ、そうですか……。


 あ、はい、後のせザクザクについてお聞きしたくて電話をしたのですが──」


 スマホで詩とやり取りをしながらメモを取っていくアラ。


「何か有益な情報はあったのかしら?」


 通話を終え、スマホを置くアラにエーヴァは話し掛ける。


「ええ、詩さんは食べる直前に入れてザクザクと食べるそうです。ですが、先に入れてドロドロが好きな人もいますし、半分に割って両方楽しむ、なんて方法もあるそうです」


 エーヴァは、興奮気味に説明するアラを見て微笑むと、アラの置いたスマホを手に取ってアラに差し出す。


「美心にも聞いてみてほしいですわ」


「なるほど、情報は多い方がいいですものね。分かりました」


 スマホをエーヴァから受けとると、美心に電話をかける。しばらくしてスマホを置くと、目を丸くして驚いた表情を見せる。


「そんなに驚いた顔をして、どうしたのかしら?」


「え、ええ。それがですね。美心さんは基本あとのせなのですが、ときには敢えてかき揚げを入れずに、生卵を先に入れてお湯をかけるらしいのです。


 何が正しいか分からなくなってきました」


「人によって随分違うのね。アラはどう調理するのかしら?」


 少しだけ考えたアラはスマホを手に取る。


「もう一件だけ電話させてください」


「ええ」


 エーヴァの了承を得てアラは電話をかける。


「もしもし、お客様サービスセンターでしょうか? わたくしアラ・ベロノゴフと申します。


 あ、はいえっとロシアから日本に来ていまして、はい。それでお尋ねしたいのですが、あとのせザクザク蕎麦のかき揚げをのせるタイミングなのですが──」



 * * *



 長い髪が垂れないように、手で押さえながら蕎麦をフォークで巻いて食べるエーヴァ。

 かき揚げの隙間にフォークを差し込むと、大きなかき揚げに小さな口でパクッとかぶりつくと、そのままザクザクとした食感を堪能しながら食べる。


「今回はかき揚げを食べる直前に入れてみましたが、これでもつゆが漬かっているところは柔らかく、上部はザクザクです。

 長く入れると崩れてしまいますが、その分出汁が染みる。奥が深いですね、お嬢様! 

 これは研究のしがいがあります!」


「ええ、そうね。


 そうだわ、この間紹介したあの子、スーはスマホを持っていないけど、今度直接会って聞いてみるといいわ。

 それとそうね、詩のお母様にも直接会って、聞いてみてはどうかしら? ついでに他の料理も教えてもらうのも良いと思うの」


「そうですね! 里子様から教えていただける料理は、お嬢様にも好評ですし、今度お伺いします」


「アラは日本に来て料理の腕を上げていますものね。いっそ趣味にしてしまってはどうかしら?」


「本当ですか!? あぁ、お嬢様にそう言われると、そうですね。ちょっと考えてみましょうか、なんて」


 エーヴァに褒められ、嬉しそうに照れ笑うアラ。


「ふふっ、アラがどんな料理を覚えて、作ってくれるのか楽しみにしてますわ」


「はい、任せてください!」


 両手をグッと握ってガッツポーズをするアラを見て、優しく微笑むエーヴァ。



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『転生の女神シルマの補足コーナーっす』


 みんなの女神こと、シルマさんが細かい設定を補足するコーナーっす。今回で8回目っすね!


 ※文章が読みづらくなるので「~っす」は省いています。必要な方は脳内補完をお願いします。


 今回の主役アラ・ベロノゴフ。

 彼女はスーツを着て、メガネをかけていて、大人びて見えますが19歳。エーヴァの4つ上です。

 エーヴァが2歳のとき、6歳で孤児院から連れてこられ、今日まで付き人として13年間一緒にいます。


 基本身の回りの世話や、スケジュールの管理を主とし、食事は管轄外ですが、エーヴァの希望によりアラが作ることに。

 不器用ではありませんが、少しおっちょこちょいなところがある彼女は、失敗も多く困っていたところを、詩の母、里子によってレシピ通り作るという技術を得て作れるようになりました。


 ちょっと真面目過ぎてカップ麺であれども、お湯の分量をきっちり計ります。

 一時期、熱量の計算を始め、気温や、表面積の違いによる蒸発の速度を考慮し始めるなど、意味不明な方向にいったときはエーヴァに止められています。


 今は少しずつ結果が出るのが楽しいようで、エーヴァに褒められるべく日々精進しています。

 そんなアラを嬉しそうに見るエーヴァ。視線がとても優しいです。


 次回


『ガストン・リュング』


 その男、人々の盾となり、槍で敵を引き裂く。

 分け隔てなく優しく、頼もしい男は人々から慕われる。

 神からも愛された男の生涯の記録の物語。


 神も本質を見抜けなかった男、ガストンのお話っす!

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