13.
ところが病院のロビーについたとき、受付の年配の看護婦から思わぬ知らせを聞かされた。
今彼女は病室におらず、しかも担当の医師や看護師も場所を把握していないのだという。
今朝一人でどこかへ出かけたまま帰ってこないらしいのだ。
彼らが言うには、現在手が忙しくて彼女の捜索には手が回らないが、もし今日中に見つからないのであればしかるべき措置を検討するとのことだった。
「――まァ、いなくなってから二時間じゃそんな遠くへは行ってないはずだし、すぐに戻ってくると思うんだけどねェ」
僕は看護婦の言う話を最後まで聞き終わらないうちに、しびれを切らして走り出した。
白石かれんが病室からいなくなった――。
いったい、どういうことだ?
勝手に院内を一人で探し回ることにした僕は、あちこち歩き回った。
中は思いのほか広く、コンビニだけでなくカフェテリアまでついていた。
しかし――。
彼女はどこにもいなかった。
一階から十階まで、エレベーターで上って入れるところだけでも入ってみた。
黒く短い髪の毛の女の子を見かけた時には、顔を覗き込んでもみた。
しかしめぼしいところを虱潰しにあたってみたのだが彼女らしき人は見当たらず、それどころか病院内はもうじき正午ともなってますます人が増えてきていた。
患者や医療スタッフの往来は多くなる一方。
これじゃ誰が誰だか分からない。
気がつくとワイシャツの脇に汗が滲み出ていた。
運動が得意でもないのに、朝からあちこち走り回ったせいだろうか。
僕は疲れ果てて、一階ロビーの待合室の椅子でへたり込んでいた。
彼らが捜索を見送った理由が分かった気がした。広すぎるのだ。
そのまま椅子に座って休もうと思ったのだが、トイレで少し席を空けた隙に、せっかく確保した休憩場所も見ず知らずの老婆に奪われていた。
しばらく休んで息切れが治ってきたころ、僕はあたりをもう一度見まわした。
間もなくあるものが目に留まった。
病院の受付カウンターの横にある、中央の大きなコンクリートの白い柱。
僕はそこに四角い大きな金属板が打ちつけられていることに気づいた。
館内案内図だった。
あることは知っていたが、存在を無視していた。
鈍色に輝く案内図を、僕はとりあえずもう一度穴が開くほど見つめた。
すると七階から上が吹き抜けになっていて、空が望める中庭があることに気づいた。
迂闊だった。
さっき見つけはしたが入らなかったのだ。
ここだ――。
僕は疲労の溜まった体に鞭打って、七階までの階段をあろうことか脚で駆け上がった。
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