5.
「……ふん」
先生は、咳払いをして少し黙り込んだ。
いつも燥いでいるお調子者の男子も、おしゃべりな女子も、みんな能面のように無表情で俯いている。
誰もが気まずい空気の中で、無視を決め込んでいた。
不自然な沈黙――。
僕にはそれが、自分には関係ない、と大声で叫んでいるようにも聞こえた。
先生は何事もなかったように、相変わらずチョークを叩きつけるように字を書いていた。
が、しかし。
「――そうだな、じゃあこうしよう」
急に動きを止めた先生。
次に何を言うのか、クラスメート全員が先生の言葉に耳を傾けていた。
でも、直後に言い放たれた言葉はあまりに意外だった。
「おい、水無月」
皆が一斉に睨みつけた先、そこにいたのは僕だった。
痛いほどの視線が僕に集中する。
「ぼ、僕ですか?」
他の生徒以上に、まず驚きを隠せないのは僕自身だった。
「お前、部活一緒なんだから行ってやれ。他に行く人もいないし」
「はぁ」
僕は急なことで答えに窮した。
衆人環視の中、どうしていいか分からず逃げ出したくなってきた。
どうする。
どうすればいい。
胸の鼓動が、周りに聞こえるのではないかというほどに大きくなる。
「いいだろ? お前で」
先生は体を反って、半身だけ生徒側を向いた。
振り向いた先生の顔は、いつにも増して真剣だった。
そして先生は、僕の目をじっと見つめた。
有無を言わさず了解を求めている――ように思えた。
もう心臓が爆発しそうだ。
「……分かりました」
結局、僕は訳が分からないまま、承諾してしまった。
僕は目を合わせられることが苦手で、ドギマギしてしまうのだ。
「分かったらこの話は終わりだ。授業続けるぞ」
他の生徒たちはざわつきもせず、もくもくと機械のように問題を解く作業に戻った。
周りの雰囲気といえば、何もかもが嘘のよう――。
さきほどの出来事をなかったことにしようとしていた。
一方で僕は、全く授業に集中できていなかった。
頭の中を風船のように膨らんでいく疑問。
渦巻く感情。
そして、亡霊のように浮かび上がる白石さんの姿。
いったい先生は何を考えているのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます