4.
「白石が事故にあった」
朝のホームルームで担任からそう聞かされてから、今日でちょうど三週間が経った。
最初はすごく驚いたし、ショックを受けた。
たまに一緒に話すこともあった彼女が、今まさに病院の手術台の上で生死の境を彷徨っているらしい――。
最初はちょっと信じ難い話だった。
しかし一週間たっても、二週間たっても、教室の一番前にある席には、彼女が来ることはなかった。
昼休み。
掃除の時間。
部活動。
ただでさえ教室にいることが少なかった彼女は、学校にも来なくなってから完全に姿を消してしまった。
彼女の不在という事実は、段々と、そして着実に現実味を帯びてきていた。
白石さんと僕、水無月馨とは、一応同じ写真部の部員である。
彼女は部活にあまりこないことが多かった。
というのも、廃部寸前の写真部は事実上僕しか活動をしておらず、彼女は来ないことが多かったからだ。
金曜日、全員強制の六時間目だけ彼女は来て、一時間ほどで帰ってしまうことがほとんどだった。
なぜ僕が突如見舞いに行くことになったか。
結論から言えば、ほかに誰も行く人がいなかったからだ。
今日の午後、五時間目の授業でのことだった。
「白石が今日から面会可能になったんだけど、クラスの誰かでお見舞いに行ってくれる人いないか?」
古文の授業で
何の前触れもなく切り出された彼女の話題に、いったん教室が水を打ったように静かになる。
だが静寂はつかの間で、ノートテイキングに興じる生徒たちは、誰一人、先生の言葉に耳を貸さなかった。
いや、黙殺した、というのが正しかろう。
――やはり。
ペンが机をたたく、雨のような音。
ノートや教科書をめくり、まるでそ知らぬ顔をする彼ら。
声をあげるものは、一人もいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます