古代の神器『ヌアネ』は現代では意外なもので。それを探す途中、淫乱魔女に襲われる。でも魔女の一人が僕を助けたせいで……

半濁天゜

第1話

 さて、物語をはじめる前に、どうしても一つだけ言っておくべきことがある。


 みなさんの文明が崩壊してせん年後の世界。主人公はエッセンタイナー、20才。相棒は情事ジョージグワリタイヤー、23才のイケメン野郎だ。


 名前のセンスが最悪だし、文字遣いもルビもおかしいって? そりゃ文明崩壊の混乱と、せん年の時流に、色々変わってしまったさ。


 だから以下の物語は、僕がみなさんの言語に翻訳したもの。原典じゃないんだ。えっ? お前の文章は元から読みにくいし、そんなことはどうでもいい?


 OK、OK。それならいいんだ。ご託はここらで切りあげて、さっそく物語をはじめよう。少しでもみなさんに楽しんで貰えますように……。





 世界の最高学府・賢者の学院。そのおさがいる部屋で、

 

「学院長、古代文明の神器・ヌアネの探索にいかせてください!」


僕たちの熱いパトスを晒し、覚悟を示す。


「ジョージ導師、エッセン導師、ついに君たちも知ってしまったか……」


 学院長の顔に、深い苦悩が刻まれる。


「はい。千年前に滅んだ古代文明。その全ての叡智にアクセスする鍵。ヌアネを持つ者は、テレパシーで繋がるように、情報伝達ができたとか。つまり……」

「皆まで言うでない。魔導師なら、いや男ならば……、もう引き留めても無駄なのじゃろうな」

「当たり前だぜ学院長。古代の叡智の全て。つまりはエロいことも、あらゆるプレイが記録されているんだ! それを求めなきゃ男じゃないぜっ!」


 ジョージが爽やかに啖呵をきる。そうだ、僕たちの心は一つだ!


「フォッフォッフォッ、そうじゃのう。して、どこを探すつもりじゃ?」


 学院長が少年の瞳で、好々爺の笑みを浮かべる。


「文献によれば、ヌアネは英雄エーユーか果物屋から買っていたようです。なのでまずは、古代遺跡に潜り、果物屋を探します」

「そうか……。ならばもう何も言うまい。お主たちの成功を心より祈っておるよ。くれぐれも魔女たちに見つかるでないぞ……」





 パシンッ! パシンッ! パシンッ! ……古代遺跡の中層。床が崩落した広間に、暴行の音が響く。ビッチの魔女二人に、僕を助けてくれた魔女・エイミーが縛られて、頬を張りつづけられている。


 ビッチたちは”二十人以上の魔導師を慰み者にしてきた”と言っていた。ここで出ていっても力の差は歴然だ。エイミーを助けられはしない。


 挙げ句、ジョージみたいに犯されておそらく魔力を失うだろう……。魔女は魔導師の貞操を奪うことで、魔力まで奪い自らのものとする。でも……。


「ったく、悲鳴の一つもあげてDT小僧をおびきだせないのかい?」

「オラオラァ! どうせDT坊やも近くでみているんだろう? 自分を助けてくれたこの子を、このまま見殺しにするつもりかい? このフニャチン野郎!」


 くそ……っ、僕は意を決し、ビッチたちに姿をみせる。


「その子は味方だろ、もう止めろよ!」


 変な誤解をされないよう、あえてエイミーの名前はださないでおく。


「出てきちゃ駄目、逃げ、痛っ!?」


 長髪長身のビッチが、エイミーの髪を引っ張りあげ、無理矢理言葉をとめさせる。


「ようやくでてきたわね坊や。あんたもさっきのイケメンみたいに吸い尽くしてあげるよっ!」

「むざむざられてたまるかっ、逃げきってやるさ!」


 折れそうな心を、虚勢で支える。


「ふんっ! 鬼ごっこは得意みたいだからね。でも、こうしたらどうするかしら?」


 グラマーな魔女が、エイミーを崩落した床、その穴のふちに連れていく。まさか……っ!?


「なにをする気だ!? 止めろよ、その子は関係ない!」

「ん~? 知らないねぇ」


 言葉と共に、グラマー魔女がエイミーを穴に突き落とす。それをみた瞬間、いや、きっとそれを予感した時から。僕は飛翔呪文を唱えながら走りだしていた。穴に飛び込み、彼女めがけて加速する。


「DTのくせに泣かせてくれるじゃないかっ!」


 魔女たちのあざけりと共に、脇腹と右足に激しい痛みが走る。呪文を撃ち込まれた!? だが今はっ!


 全速力で彼女に追いつき、その肩と膝に手を回す。彼女を抱えるように、穴の底に着地する。飛翔呪文フライ・ハイで、右足をかばいながら。


 仙人の域に達した、極まった大賢者は。女性のふとももを見ただけで魔力を失うこともあるという。だからこそ、間接的にエロを得られるヌアネを求めているわけだが……。


 未熟な僕は、エイミーに直接触れても、まだ八割くらい魔力を保てている。若輩じゃくはいの、怠け者でよかった、なんて軽口を言葉にするまでの余裕はなくて……。


 彼女の縄を開錠呪文アンロックでほどく間に、魔女たちが穴の底にやってくる。


「チェックメイトだ坊や。鼻血とアレを吹きだし白目を剥くまで可愛がってやるよ。さっきのイケメンみたいに!」

「あの小僧、られながら涙を垂れ流していたよ。賢者になる前に汚されてしまった、ってね。なのにアヘアヘいきまくってやんの、くっははははは!!」


「黙れ!! ジョージを馬鹿にするな!!!」


 ジョージの無念を思うと、胸と股間が張り裂けそうだ。それらの間で葛藤しつづけるのが魔導師の宿命だから。魔女たちが、美女と言って差し支えのない容貌なのが、せめてもの救いだろうか……。


 色んな意味で激高する、僕の頭に顔を近づけ、エイミーがそっと耳打ちする。おとぎ話にある伝説の……? まさか、そんなことが!? でも、もう万策尽きているんだ。このまま犯されるくらいなら……っ!


 彼女と手を取り合い、呪文の詠唱をはじめる。魔女たちの顔が驚愕と憎悪にゆがむ。


「下等な魔導師と結合呪文メイジ・ラブをっ!? エイミー、あんた魔女の誇りまで捨てる気かい!?」

「私は魔女の誇りより、人としての誇りを選びます!」


 頬が腫れ上がり、髪が乱れる痛々しい姿で。彼女は威厳に溢れ輝いていた。


「退くよクレア!」

「くそがぁ!!」


 捨て台詞を残し、魔女たちは転移呪文で逃げていく。



 その後、僕たちは呪文で傷を癒やし……。



 荒れ果てた古代遺跡。その崩落した穴の底で。


「命がけで助けてくれてありがとう。私は……、はぐれ魔女のエイミー。貴方のお名前は?」

「僕は……、はぐれ魔導師のエッセン。僕の方こそ助けてくれてありがとう……。はぐれ者同士、仲良くしてくれると嬉しいな」


「もちろんよ! 貴方の魔力がなくならない程度に、ね」


 悪戯に笑う彼女は、闇夜に浮かぶ月のように美しかった。





 えっ!? スマホがでてないって?


 いえいえ、ジョージの名字は、グワリタイヤー。作中の『ア』はみなさんの時代の『マ』。そんな風に似た文字がごちゃ混ぜになっているんだ。


 だからスマホヌアネがなんなのかというと……、もうおわかりですよね。


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KAC20215

お題「スマホ」

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古代の神器『ヌアネ』は現代では意外なもので。それを探す途中、淫乱魔女に襲われる。でも魔女の一人が僕を助けたせいで…… 半濁天゜ @newx4

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