スマホで異世界転生

tolico

今日も世界は順調です


 地形生成中。


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 地形生成完了。




 大地が広がり、私は独り目を覚ます。音が、光が飛び込んでくる。そこは無限に続く自由な世界。

 まだ見ぬ未開の地に心が躍る。



 目の前に広がる雄大な土地。そよぐ風に揺られる草花。立ち並ぶ樹々のざわめき。

 空をゆっくり流れていく雲が、遠くきらきらと光る水面みなもの青に消えていく。



 草原には四角い顔の牛、豚、羊。少し離れた小高い丘には馬らしき動物も見える。


 足元の草をかき分けて、ふいに近づいて来たトサカの無いニワトリは、つぶらな瞳で私の顔を見上げる。

 じっと見上げたその顔のままに、身体だけがあさっての方へ向き直り、そのまま何処かへと遠ざかって行った。




 少し辺りを探索する。


 草原から砂浜に出る。彼方まで続く海には黒くて四角いイカと、長方形のサケが泳いでいた。

 ゆらゆらと揺れる海藻を眺めていると、時間などあっという間に過ぎて行く。



 深呼吸をひとつ。


 私は手にしたスマホで荷物欄インベントリーを確認する。


 何も無い。空欄のインベントリー。


 質素な洋服だけを着て、この世界に降り立ったのが私だ。

 頼れるのは己の腕二本。


 ドット絵で描かれた自分の腕を動かしてみる。



 よし、まずは手近な木を切ろう。道具を作るために作業台を用意しなければ。

 夜はあっという間に来るのだ。そうなれば怖いゾンビにスケルトン、大蜘蛛などにも襲われてしまう。

 早々に松明も作らなければならない。夜は真っ暗だ。

 それが済んだら食料も確保しないとね。

 畜産をするか畑を作るか。とにかく、とりあえず手を動かそう。


 さあ、急ぎ態勢を整えよう。





 あくる日。私はたくさんの武将を従え、戦う指揮官だった。

 戦略を駆使し、戦利品で自軍を強化し、人員を育てる。スマホでステータスを確認し、装備品を分配する。


 時に魔法を用い、指揮を高める。無限に湧いてくるとも思える敵を薙ぎ倒し、勝利をこの手に収めるのだ!




 またある時は謎に立ち向かう。探偵のようだがそうでもない。スマホに魔法の線を引いて、壁を作れば丸っと全て無事解決!


 ブロックを動かし活路を開き、難題難問を越えて行く。




 そしてまた別の日は。ゆったりと揺蕩たゆたう深海の王者。豊かな資源と仲間たち。

 この美しい海の底に、動物たちのユートピアを作り上げるのだ。





 お手軽でお気軽な異世界トリップ。スマホで簡単異世界転生。



 もうお分かりだろう、これはスマホのアプリゲームのお話だ。


 レトロゲームから最新のRPG、シューティング、育成、パズルに謎解き、オンライン対戦まで、最近は何でも揃っている。


 これの何処が異世界転生かって?


 精神意識がゲームの中にあるのだから、それはもう、異世界転生と言っても過言ではないのではないか。

 日帰りと言わず、分帰りで出来てしまう。なんと簡単なことだろう!


 ハマり過ぎ、課金で金欠要注意。自己責任です、気を付けて。


 でも、やめられない止まらない。スマートホリックにはご注意を。

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