アイデアをいただいたので

【学パロ】いざ、オカルト研究会!

 某所某大学。入学早々、私はちょっと困った目に遭っていた。


「エスターちゃん、早く早くー」


「えぇ……やめようよほんとに」


「大丈夫だって、怖がりだなあ」


 ……深夜の大学構内。学生の自殺率ナンバーワンを誇る(誇っちゃいけないと思うけど)研究室の真下の植え込みに怪しい人影が見えることがある、という噂を同級生が聞きつけて、数人で肝試しに行くことになってしまったのだ。


 友達づきあいは本当に大事にしたいんだけど、その、こればっかりは、困る。


――なんでって、私は「本当に」幽霊が「めちゃめちゃ」見えてしまう体質なのだ。


 なんなら友達に憑いてる守護霊があわあわしているのも現在進行形で見えている。憑き主が好奇心旺盛だと苦労するんだろうな……。


 これまでも本物の悪霊に何度も遭遇して、死に物狂いで逃げたことは数知れず。なのに、わざわざ悪霊がいそうなところに行くのは大変にごめんこうむりたい。


 とか考えているうちに、問題の植え込みが見えてくる。友達が懐中電灯を向けると、ぼうっ……と人影が浮かび上がった。


「う、うわーー!?!?」


「でたーー!!!」


 さっきまでの楽しげな空気はどこへやら、友達はみんなすごい速度で逃げ去ってしまう。取り残された私は友達が落とした懐中電灯を拾い上げて、「人影」に向けた。


「あのー……なにしてるんですか?」


「ハイィ?」


――それが、私とアレン先輩の出会いだった。




 いわく、大学院一年生のアレン先輩はオカルト好きらしく、いろいろな怪談の噂が絶えないこの大学の「除霊」をしてまわっているとのこと。


 アレン先輩自身に幽霊を見る能力はない。でも「除霊」の儀式をするとぱったり怪談の噂がなくなるらしいから、たぶんその方法は間違っていないのだろう。


「そこでエスターサンが私の活動に参加していただけますとォ、実際に『除霊』されたかどうか検証が可能なわけでしてェ」


「……あの、休み時間終わっちゃうんですけど……」


 今アレン先輩が言ったような理由で、私は最近ことあるごとにアレン先輩に「一緒に活動しないか」と誘いを受けている。何度断ってもこれだから、そろそろ折れてしまおうかと思わなくもない。


 でも「除霊」するってことは実際に悪霊のいるところに行かないといけないわけで……。それはちょっと嫌だなぁというのが大きい。


 どうしたものかなぁ、と思いながら、私はアレン先輩を置いて教室移動を急いだ。




「うぇぇ……絶対出るってこれ……」


 深夜の大学。私はパソコン室にメモリを忘れたのに気付いて、それを取りに行こうと構内を移動していた。いろいろいわくつきの場所が多いこの大学は、あっちこっちから幽霊の気配がして落ち着かない。


 でも単位を落とすわけにはいかないし……。あぁ、憂鬱。


 昼間は整然と並んで綺麗な木立も、夜になるとなんだか不気味。そんなことを考えながら歩いていたら、ばりめきぃ、と真横の木からいかにもやばい音が聞こえた。


 逃げればいいのに、足を止めてしまう。横を見ると、悪霊の憑りついた木が私にその枝を――腕を――伸ばしてきた。そのままぐいっと首をつかまれてしまって、持ち上げられる。


「ぐっ……うぅ……」


 そういえばこのへん、首吊りスポットとかいう噂あったっけ。


 薄れゆく意識の中でそんなことを考えた、そのとき――。


「悪霊退散ン!!」


 なんか、聞き慣れたようなそうでないような、声が聞こえた。




 急に息ができるようになった気がして目を開けると、私は地面に横たえられていて、例の木とアレン先輩が対峙しているところだった。


 アレン先輩はゴーグルっぽいものを前髪ごしに着けていて、それ見えるのかなあ、とかぼんやり考えたところで今の状況を思い出す。


「あ、悪霊……ゲホッゴホッ」


「目が覚めましたネェ、エスターサン。今この木を『除霊』しますヨォ」


 アレン先輩はなんか複雑な模様が描いてあるお札が貼ってある水鉄砲を取り出すと、悪霊の宿った木に向ける。


「バン!」


 中に何も入っていないはずの水鉄砲から、清らかな波動の球が飛び出して――木にそれが当たる寸前、悪霊は隣の木に移動してしまう。私は思わずがばっと起き上がった。


「アレン先輩、左の木に移動しました!」


「なんですってェ!?」


 それから私が悪霊の位置をアレン先輩に教えて、アレン先輩が『除霊』の水鉄砲を発射して、を繰り返すことしばらく。


 ようやく悪霊に命中した清らかな波動は、悪霊を相殺して空気に溶けた。


「当たりましたかァ?」


「は、はい……」


「ふゥ、今夜の『除霊』はようやく成功ですネェ」


 ところでェ、とアレン先輩は私の方に振り向く。手を差し伸べてきた。


「やはり我々がコンビを組むと最強だと思うのですがァ」


「……私も、そう思いました」


 私が手を取ると、アレン先輩は嬉しそうに宣言する。


「ではァ、ここに『オカルト研究会』発足ですゥ!」


「だっさ!?!?」


――それから。非公式同好会、「オカルト研究会」の「除霊」活動が幕を開けたのだった。




続……かない!

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