スマホ大戦

タカナシ

スマホをめぐる闘い

 ここは魔法マホーがすべての世界。

 ありとあらゆるものが魔法でまかなわれており、人々は特許をとれる魔法の開発に勤しんだ。


 そんなとき、四人の魔法使いが同時期に特許を取得しようとしたがとある問題が起きた。

 もちろん、その問題を解決するのも魔法を用いて行うこととなり、一番優れた魔法使いの意見が通される事となった。


 闘いの場として用意されたのは障害物となるようなものは何もない円形闘技場。その四方に四人の魔法使いが互いに向き合う。


 一人はローブを羽織り、身の丈より長い杖を持った大男。

 一人は冒険者風の軽装鎧を着込んだ壮年男性。

 一人はぶかぶかの服を履いているデブ男。

 一人はコートを身に着けている青年。


 四人の男たちが火花を散らす中、勝負の開始が宣言される。

 しかし、一人は臆したのか、その場に留まり、残りの三人はこぞって中央へと向かった。


 中央に我さきにとたどり着いたのはローブを羽織り、身の丈より長い杖を持った大男。彼は向かいくる二人に対し叫んだ。


「我こそが、スマホの使い手。貴様らごときに遅れは取らぬぞっ!」


 その言葉を受け、残りの二人、壮年男性とデブ男は、「それはこちらのセリフだ」とそれぞれが告げる。


「しゃらくさい! 喰らえ! 我がスマホ!! 氷雪魔法アイス・マホー略してスマホをっ!!」


 空中に氷柱つららが現れ、二人を襲う。

 今まで水を急速に冷やし氷とする魔法はあったが、氷自体を出す魔法はこれが初だったのだ。その未曾有の脅威が降りかかる。


 その脅威に一人、冒険者風の壮年男性は腰に佩いた剣を取り出し叫んだ。


「唸れ! 俺のスマホ!! 斬撃魔法スラッシュ・マホー。つまりスマホだっ!!」


 魔法が付与された剣は氷柱をまるでバターのように切り裂いた。


 一方、ぶかぶか服のデブ男は大きく口を開き告げた。


「甘いんだな! オデのスマホ!! 吸う魔法スウ・マホー。そのまんま、スマホだなっ!!」


 氷柱はまるで異次元にでも吸い込まれたかのようにデブ男の口の中へ消えて行った。


 三人はお互いの拮抗した実力に立ちすくみ、魔法だけではなく、口撃も挟む。


「ふんっ! 名前としては我のものが、アイーと一番キレイではないか! 大人しく譲るがよいっ!!」


「何言っていやがる。どの辺がキレイなんだ。だいたい大して上手く略せてないだろ。それならアイマホとかの方がよっぽどいいと思うね。略すってのは俺のラッシュ・ーでスマホみたいのを言うんだよ!!」


「オデの吸うマホーが一番スマホに字面が近いし、直感的にも分かりやすいと思うんだな!!」


 そう、今、この場に集った四人はそれぞれ特許を取ろうとしたが、魔法の名前が被ったのだった。

 魔法使いにとって自分の考えた名前をつけるのが夢。その考えた名前が被っていたのでは、これは争うしかなかった。


 そんなとき、最後の一人、コートの青年が口を開いた。


「こんな不毛な闘いは終わりにしましょう。本来魔法は人を幸せにするものです。争う為のものじゃない! だからボクが終わらせます。これが本当のスマホです!! 聡明携帯情報端末スマートフォン魔法。あなた達の魔法の対処法は全てこの魔法で検索できました」


 コートの青年は、炎で氷を溶かしつくし、見えず早い風で剣を奪い去り、毒を生成し投げつける。

 あらゆる物事を検索し、その答えを知り行使することが出来る魔法。それが青年のスマホという魔法だった。


 一瞬で三人は戦闘不能にされ、勝者は誰の目からも明白のものとなった。


 こうして、スマホという魔法は青年の聡明携帯情報端末スマートフォン魔法だけが名乗ることを許されたのだった。


                 ※


「我、実はアイマホもちょっといいなって思ってたんだ」


「そうか、そうか! なら今度はお前が俺の魔法の名前考えてくれよ」


「オデ、お腹減ったんだな」


 スマホを名乗ることが出来なくなった三人はその後、仲良く飯に出かけたというが、それがスマホのおかげかは誰も知るよしはなかった。

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スマホ大戦 タカナシ @takanashi30

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