スマホの恋

マフユフミ

第1話

叶わぬ恋をしている。


身分違いというのだろうか。

何をどうあがいても、決して叶うことのないその恋を、それでもどうしたって捨てられずにいる。


都合のいい女でも別に構わなかった。

ぽっかり空いた時間を埋めるためだけに呼びだされても、それで良かった。

だって、その間あなたを一人占め出来るのは私の特権で、そんな理由であってもあなたの役に立てるということが、とてつもなく嬉しかったから。


きっと、バカな女なのだろう。

あなたの気持ちが私にないと知りつつも、こんな不毛な思いを止められないなんて。

あなたの本当の心が私に向けられることなんてないと、身に染みて分かっているのに。

それでも忘れることなんてできないのだから、もうどうしようもない。


そんなに優しい手つきで触れられたら。

そんなに熱のこもった指先でそっと撫でられたら。

いつの日か私の方を振り向いてくれるかもしれない、なんて勘違いしてしまう。

あなたの想い人のことも、その人へ向ける熱情も、何より私が知っているというのに。


あの人よりも、いつもそばにいるのに。

私なら、あなたを決して一人にしないのに。


どうしてもそんな思いが溢れてきてしまう。

ひどく惨めで、自分の浅ましさに泣けてくるほどなのに、あなたへの思いは止められない。

どうにも不毛で発展性のない、恋というものにこの身のすべてを捧げてしまっている。


たぶん、救いようのないバカ。






叶わぬ恋をしている。


身分違いというのだろうか。

何をどうあがいても、決して叶うことはないその恋を、それでもどうしたって捨てられずにいる。


少しでも大人っぽく見られたくて、服も靴もカバンも替えて、話し方も落ち着いた雰囲気を意識した。

同級生からは「何?キャラ変?」なんて好奇の目で見られたけれど、そんなのどうでもよくて。

あの人の一言一言に一喜一憂して、笑ったり泣いたり。まるで女子高生だな、と自嘲して、それでもやっぱり好きでいることを止められない。


ても、どれだけオレがあの人に見てもらおうと頑張っても、精一杯背伸びして届こうとしても、あの人がオレを見る目は、弟を見る目と変わらない。


もう、脈なんてないことぐらいとっくに分かっていた。


どれだけオレがあの人のことを見ていると思っているんだ。

あの人の、ほかの人からすれば非常に分かりづらいらしい感情の襞みたいなものは、粗方把握している。

そして、あの人の中にオレの存在が欠片もないことさえ、完全に把握済みだ。

それなのに、あの人を思う気持ちは止められない。

どうにも不毛で発展性のない、恋というものにこの身のすべてを捧げてしまっている。


たぶん、救いようのないバカ。






今日もあなたは切ない顔で私を見る。

私を通したその先にある、大切な想い人のことを考えながら、メッセージを送る。

「カッコつかねーな」

「こんなんどうしようもねーよ。好きなんだから」

あなたの独り言が、私には痛い。


だってそれは、そのまんま私の言葉。

私があなたを思ってこぼしてしまう言葉とまったく同じだから。


たぶん、救いようのないバカ。

ただのスマホが持ち主を好きになるなんて、どうしようもないバカだ。

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スマホの恋 マフユフミ @winterday

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