第2話 それは、果たして正義か?
勇者は、幼い頃から魔王を討伐するために育てられた。魔族は敵で亜人種達は魔族の肩を持つ怪物、全ては人の世界を守るためだ…
そう教わり自分は選ばれた素晴らしい人間だと思い込まされてきた。
箱庭の世界で…。
それが、愚かな考えとは知らず。
いつしか、正義の心を持って育った少年は傲慢な青年になり同じく愚かな若き王の企みに乗った、彼らはそれを正義と信じて疑わなかった。
だから、見抜けなかった。
自分が侮った少女の正体に…、
自分たちの信じてきた正義が大人達によって歪められたものだということに…。
だから、セルシオン達は魔族狩り亜人種狩りを国を挙げて行った。彼らが泣きながら助けを求めても暴力をやめなかった、ルルやバセルがこっそり彼らを逃していたのに気づくと裏切り者、国賊と罵り暴力を振るった。
そして、あの日。セルシオンはルルをパーティーから追い出した。
金でルルを盗賊達に売ったあんなクソの役に立たない女でも多少の金になったと、ほくそ笑むセルシオンにガセルが叱責を入れる。
「俺様は勇者様だ、あいつは俺様の役に立ったんだ。泣いて喜んでいる」
と言い返した。それを聞いてガセルはもう付き合いきれないと言いパーティーを離脱した。
セルシオン達はガゼルを勇者に逆らった国賊として捕らえるため王国に戻った。
そこに広がるのは人々の笑顔ではなかった、
燃え広がる炎、飛び交う悲鳴や怒号、そして
王や勇者を責め立てる声。
勇者は逃げるように国を出た。
何故だ、と心の中で反芻しながら。
アルンテス王国では大規模なデモが起こっていた、それを先導していたのはこの国の騎士団長だった。再三、パラティスタ王国からの
使者を無下に扱ったばかりか彼らの王を討伐するなど、パラティスタ王国からは食料の援助などを受けているのに彼等を敵に回すことをすれば民達が死んでしまう。
しかし、そんな民達の必死の訴えにすら王は耳を貸さず、そればかりか騎士団長を国賊として捉え処刑し、その首を晒した。
あまりの暴君ぶりに民達の怒りは爆発し、
城に火をつけ城に殴り込んだ。民達は皆怒り狂い王と勇者一行を許すなと叫んび続けた。丁度城に攻め入る所に帰ってきたガセルは民達の怒りを宥めようとしたが、最早手遅れであることを理解した。彼らの怒りを受け入れ自ら命を捧げた、それが自分にできる唯一の贖罪だと思ったからだろう。
彼は、自ら処刑台に登りその命に幕を下ろした。
程なくして愚かな王は捕らえられその首を切り落とされた、それを見届けていた二人の青年の姿に気づいたものはいなかった。
パラティスタ王国に帰還したルーバスは、玉座の間で待つ二人の息子から報告を聞いていた。浅葱色の髪の青年エメルと菫色の髪の青年ルーパスは淡々と国が民達のデモで滅んだと告げた。
「なぁ、兄弟、勇者一行ってあの逃げた奴ら?」
「だろう、まあ。ガセルとかいうまともな奴は贖罪として自ら死を選んだみてぇだけどな」
エメルが気怠げに話すの聞いてルーパスが報告書を見ながら答える。
かくして勇者一行の正義はボロボロに打ち砕かれた。
「迎撃準備をしておけ、あの馬鹿は遠からず来る。全てを我ら魔族の罪にするために」
二人は、その言葉を聞いて凶暴な笑みを浮かべた。
それが。
果たして正義かどうかなど誰にもわからない、勇者にとって幼い頃から教え込まれたそれは正義であったし、魔王にとって自国の民を守ることこそが正義だ。
ただ、アルンテス王国の民にとって勇者の掲げる正義は正義ではなかったのは確かだ。
青薔薇の悪魔 虹渡るカピバラ @kapibara5
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