格高スマホ

水谷一志

第1話 格高スマホ

 「おやおや、これが携帯電話っていうのかい?」

「おばあちゃん、ただの携帯電話じゃなくて、スマートフォン。スマホだよ!」


 ついに、機械オンチの祖母がスマホを持つ時がやってきた。


 しかし今までガラケーもろくに持っていない祖母は操作に一苦労。

「これは……ボタンが少ないねえ」

「おばあちゃん、これタッチパネルね。……って言っても分かんないか。とりあえず画面に出てくるから」

私は祖母が「ボタン」という言葉を知っているだけで上出来だと思う。……ちょっとバカにし過ぎ?

「おやおや何も出て来ないよ」

「おばあちゃんまたどこか触った?もう……!」

私はおばあちゃん子で育ってきた。でも、それでも、祖母の機械オンチにはイライラする。


 そんな時は、

「これはおばあちゃんが年金を頑張って貯めて買ったスマホなんだ」

そう自分に言い聞かせる。


 祖母は今は隣の家屋に住んでいる。まあ田舎の方なので土地はたくさんある。そして祖父が一昨年に他界しその家屋も住人が一人になってしまった。そんな中、連絡が必要なことも増え、また祖母の散歩など一人での外出時にも対応できるようにスマホを購入した。


 最初私の父と母は、(特に父が)

「母さん、スマホの料金はこっちで払うから」

と言っていたが、祖母が

「いやいやそれは悪いよ。お金は全部こっちで用意します。今まで貯めた年金があるから、大丈夫」

と言い父母は祖母に押し切られてしまう。


 そうやって買ったスマホ、値段は聞いていないがいわゆる格安スマホだろう。ただそれでも祖母が、

「あの電話、高かったねえ」

と言うのが微笑ましい。


 「じゃあおばあちゃん、私に電話してみて」

「えっと……、えっと……」

「母さん、そんなんで大丈夫なの!?」

少々短気な所がある父が私たちの横からそう言う。

「いや……これは……」

「いざという時に使えねえと購入した意味ねえから!」

「お父さんそんな言い方しなくても……」

「あ、ごめん。悪い言い過ぎたよ」

「いやいや。でも難しいねえ」

「おばあちゃん大丈夫!ちょっとずつ慣れていけば……ねっ!」

「そうだねえ」

ここで私はある提案をする。

「そう言えばおばあちゃん、スマホ教室に行ってみれば?」

「何だいそれ?」

「この携帯買った所で、スマホの使い方教えてもらえるの!もちろんお金はかかるけどいいでしょお父さん、お母さん!」

「まあ、そっちの方が俺たちが教えるよりもいいかもな」

……というわけで祖母はスマホ教室に通うことになった。


 「何にせよ、初めての所は緊張するねえ……」

祖母はその日、私とショップまで歩いていくことに。

その時だった。

「あっ!」

たまたまスマホを取り出した祖母が、そのスマホを川に落としてしまったのだ。

「ああ~!」

これはショックだな。でも私は祖母に冷静にこう声をかける。

「おばあちゃん、事情を話して新しいのもう一度買おうよ!ちょうど店に行く途中だしさ」

「でもあれ、高かったんだよお……」

たとえ格安でも、祖母にとっては初めてのスマホだ。そう思うのも無理はない。そしてショックを受けるのも。

「大丈夫だよおばあちゃん。そんなに高いやつじゃないし」

「スマホ自体はね。格安だからねえ。でもあれ、【ケースが1000万円するんだよお!】」




 「えっ!?……ってか、はあ!?」  (終)

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格高スマホ 水谷一志 @baker_km

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