第34話


 弘子と悪霊は定期的に連絡を取り合っているようだ。しかし、同じ霊だとしても、なぜ、こうも違うのだろうか。悪と言う字が付くだけで、これほど心理に影響を及ぼすものなのかと改めて思った。よく考えてみれば、弘子も最初は怖い顔をした幽霊だった。だとしたら、悪霊も仲が良くなれば怖さを感じなくなるのだろうか。可愛く見えるようになるのだろうか。弘子もたくさんの人を殺めた恐ろしい霊であり、悪霊と呼ぶ人もいるかもしれない。けれども、今は私を手伝うヒーローの良きパートナーである。この差は何処からくるのだろうか。全く、霊の在り方は理解を越えている。しかし、こういった考え方は地域にもよるのだろう。私は日本と言う国に送られたが、これがアメリカや西欧諸国だったらまた違うはずだ。それは教育の違いだろう。例えば、キリスト教国家に送られ、そこで教育を受けた場合だ。日本では一般的に、木や岩など自然物にも神が宿ると思われている。それは神社などで注連縄が飾られているから、それが普通の事だと幼いころから頭に植え付けられる。対して一神教のキリスト教などでは、そう言った慣習はない。日曜ごとに教会のミサに通う家庭だったならば、なおさらではないか。しかも面白いことに、一般的に見ても何処の教会であっても信仰の対象はイエス・キリストである。日本ならば神社によって祭られている神様も違う。そう言った違いが、善と悪もはっきりと区別する所以ではないのだろうか。日本はどちらかと言うと、その辺が曖昧だと思える。言い換えれば、人間の気持ち一つで変えられる余裕があるのだ。選択の自由と言った方が早いかもしれない。地獄の番人である『閻魔大王』この大王は地獄の入り口に構え、罪人の量刑を測る地獄の裁判官だ。そうなれば、大王は悪人ではないと思える。対してキリスト教に於ける地獄の番人は、天界から追放された堕天使である。キリスト教に於いて堕天使は明らかに悪人扱いだ。よく聞く『ルシファー』だ。そう言った教育の違いがある以上、私が日本以外に送られた場合との差はあって当たり前と言えよう。とは言え、宗教に対して関心もなく無頓着な生活を送ったせいで、この程度の知識しか持っていないのも事実である。まぁ、日本人の大部分は私と似たようなものだろう。

「それはエイリアンも同じよ。地球人から見たら、存在の在り方には理解を超えているわ」と、弘子が急に声を出した。また心を覗かれていたようだ。すると弘子がまじめな顔で私に質問を浴びせた。

「ほかにもエイリアンっているの?」である。

「いないとは言えないな。自分がエイリアンだと分かった以上、それは否定できない。でも、地球に来ているかは確認できないし、そもそも接点がないんだ」

「接点?」

「そう。仮に地球にエイリアンが来ているとしよう。有名なUFOに乗ってね。その場合、通信装置位はあるだろ?長い航海をしてくるんだから当然あるはずだ。しかし私の場合、それがないんだ。どうやって地球に送り込んだかもわからないけれど、宇宙船もないければ特殊な装置もない。私にあるのは、前に見せたカプセルだけなんだ。もしもほかのエイリアンが来ていたとしても、連絡を取れる手段さえない」

「それはこちらからは、ってことでしょ?もしも、貴方の活躍を見てたら、接触してくるんじゃないの?」

「あー、そうか……」

「貴方の存在に気が付いていないか、或いは静観しているか。もしかしたら敵対種族ってこともあり得るわね」と、弘子はにやりと笑った。明らかにからかっているようだ。けれど、あながち冗談とも言えないのが恐ろしい。

「おいおい、怖いこと言わないでくれよ。地球人の犯罪者だけで精一杯だよ」

「そうね、でも把握できない以上、心構えだけはしておいた方がいいわよ」

「いやいや。ヒーローだからって映画やアニメのような宿敵は勘弁してくれ」とは言え、弘子に指摘されるまで、そのことには考えが及ばなかった。未確認飛行物体のニュースなども確かに多く流れている。有名なエリアの話もある。全てを嘘で片付けるのには無理がありそうだ。そうなれば、あまり目立った活躍をしない方が無難なのかとも考えた。その考えを見透かされ、

「それじゃヒーローとは言えないわよ」と弘子に笑われた。

「そうだね。これじゃ臆病すぎるな」ズバリな指摘である。全く恥ずかしい限りだ。そんな会話をしているうちに、あっさりと強盗グループを捕まえていた。

そして、駆け付けた警察官に犯人たちを引き渡した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る