第28話
精神的な面とは別として、私の肉体はほぼ完成したようだ。歳も取らなくなり、充実した日々を送っていた。本来ならばもう直ぐ六十。地球の年齢に換算してだが、初めてコスチュームをつけた日から老けなくなった。かえって若返ったと言えよう。気分も最高だった。やっと求めるものを手に入れた幸福感で、私は満たされた日々を送っていた。
そして今日も弘子が寄り添い、街に出かけた。 「ごくろうさま」
道行く人が挨拶をくれる。小さな女の子が笑顔で手を振ってくれる。交番の警察官も私に敬礼をしてくれる。 地上五十センチで徐行飛行の私に。
私は皆から元気をもらっていたようだ。皆の笑顔が私に幸福感を与えてくれ、充実した日々を送らせてくれていたのだ。もちろん弘子の支えが無ければ、私の存在すらなかったと同じだ。弘子が傍に居てくれることで、私の能力は極限まで発揮でき、心おきなく行動できたのである。今では二人の母にも心から感謝をしている。地球での母もすでに他界した。長いこと会わなかったが、最後は看取る事ができた。弘子に訊ねたが、母は真っ直ぐにいるべきところへ向かったようだ。それは寂しくもあったが、安心することもできた。ちゃんと迎えが現れ、居るべき場所にも迎え入れられたことを示しているからだ。母は自分の人生を全うし、満足して旅立ったのだろう。それを運命と呼ぶのかも知れない。私としても、思春期前に手紙を読んでいたら弘子とは会えなかったはずだ。もしも地球に送ってくれなければ、当然出会う事もなかったはずだ。そう考えると、エイリアンである自分にも、運命と言うものが存在するのではないかと思えた。
ある日、いつかの中学生が私の元を訪れた。
それは誘拐事件を解決した時だった。丁度、犯人を引き渡しに警察署を訪ねた時に、私の前に歩みだしたのだった。立派な若者に成長していたが、当時の面影は残り、私は直ぐに気が付いた。彼らはじっと私を見た後、
『誰にも言わなかったよ』と、耳打ちした。そして
『これからも頑張って』と言い残し、成長したかつての中学生は去っていった。私は涙が出そうになるのを、必死で抑えた。
皆に好かれているとの実感に心が震えたのだ。私を笑いものにしたあのキャスターでさえ、今は私の大ファンだと公言している。
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