第25話
部屋はちょっとした映画鑑賞会に変貌した。全員が興味深そうに見ていたが、中盤に差し掛かった頃、ジョンが一つの疑問を投げかけた。消滅したとして、君たちには魂が残るの?である。言われてみれば、考えたことはなかった。私自身、寿命かなにかで死んだ場合、弘子の言うように、迎えが来るのか?幽霊になれるのか?そもそも、エイリアンである自分にも魂があるのかを考えたこともなかったのだ。そこで私は皆に聞いてみた。
「死後の世界はあるよね。あるのならばどこに?」
これにはジョンが答えてくれた。
「今、居る所は人間界。分かるよね。そしてその外側に霊界がある。我らが居るのはその狭間だ。人間界と霊界との隙間と考えてもらえれば結構だ。地球を人間界とすれば、その外周にあるのが霊界だ。人間界を取り巻くように存在している。だから、国境も無ければ、言語の隔たりも無い。分かるかね」
「分かります。要は地球を取り巻いている訳ですね」私は手で二重の輪を作った。
「そう思って差し支えないだろう」
「では、その外側はどうなっていますか?」
「へっ?」私の質問にジョンは面食らった。
「私の故郷、地球からは遠く離れた他の星ですが、そこはあなた方の世界のほうが近いのではないですか?」
「うーん」ジョンはうなった。全員が考え込んだのだ。ジョンの説明からすれば、人間界より霊界のほうが外宇宙と明らかに近い。霊界と呼ばれる場所がどの程度の規模と広さを持っているかはわからないが、人間界よりも情報は得易いのではないかと思ったのだ。その時一人の男が話し始めた。ラテックス工作の熟練者だと紹介された男だった。
「貴方の言うとおりですが、霊界の目は宇宙には向けられていません。輪廻は理解できますか?その輪廻、次代の誕生に向けて人間界を見ているだけです」
「では、見ようとすれば見られるのですか?宇宙を……」
「接触は許されていません。本当は人間界との接触も許されてないのです。ただ、我々は狭間に居るから接触できるのです」
「何故、宇宙に目を向けないのですか?」私は不思議でたまらなかった。正直に言えば、少しでも情報が得られると思っていたからだ。
「種族の保護です。仮に、宇宙とつながりを持ち、同時に霊界同士がつながりを持ったら、地球あるいは、接触を持った星に、異星の魂が誕生する恐れが出てきます。火星に人間同様の生命体がいたと仮定して、霊界同士が接触を持った場合に、下手をすれば、火星人の魂を持つ地球人が生まれてしまう恐れが出るからです。種族の保護のためにも、霊界のつながりは決して出来ないのです。生きた人間が接触する分には問題ありません。その肉体は朽ち果てる運命だからです」話の内容からは、私にも魂は存在するらしい。それならば、
「私が死んだら、誰が迎えに来て、どこにいくのでしょう」との疑問が湧いた。
単純な質問だが、私には重要なことだった。
「おそらく貴方の星から使者が来るはずです。しかし、星そのものが消滅した場合、残念ですが誰も来ません。霊界とは、それぞれの星に個別に存在するものなのです。星が無くなれば、霊界もなくなります。そして、輪廻もそこで断ち切られるのです」彼の説明は私にはショックが大きすぎた。いつまで生きられるか分からないにしろ、私の死は、全ての終わりを意味していた。しかし、同時に小さな期待も胸に沸いてきた。例え住めない星なっていようとも、星さえ消滅していなければ霊界は存在し、故郷に帰れる可能性があるのだ。故郷の星の消滅の意味がはっきりと分からない以上、その望みに賭けるしかなかった。弘子は優しく私に寄り添った。実体はないが、その暖かさは感じられた。
「ありがとう」その言葉が精いっぱいだった。でもそうなれば、生きているうちに、出来る限りのことをしてやろうと思った。もう迷ってはいられない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます