第24話

 アパートに戻ると、夕子以外にも大勢の客人?が増えていた。中には金髪の幽霊まで混ざって議論の真っ最中であった。

「もう、私は箸も持てないのよ」二人の姿に気が付いた夕子は本気で怒っていた。

「ごめんごめん」と平謝りすると、

「任せる、と言って二人とも居なくなるから……。仕方なく応援を呼んだわよ」

と夕子は呆れたかのように呟いた。

「ごめんね、夕子。実は、私もヒーローしちゃった」と弘子は楽しそうに話を聞かせた。夕子も今しがたの事件の話を聞いて笑顔を取り戻したようだ。

「赤ちゃん良かったわね」その場にいた幽霊全員が喜んだ。赤ちゃんの霊が一番可哀相なのだと、弘子は説明してくれた。赤ちゃんが死ぬと、必ず幽霊になるそうだ。成仏するために迎えに来たとき、何も選ぶことが出来ないためだ。

結局はここに留まり、人間界のように世間を勉強してから、旅立てるようになるらしい。しかし、人間の歳で言えば、七歳までしか成長できず。その時成仏を選ばなければ、ずっと留まることになるそうだ。これからは、赤ちゃんの危機を最優先にと、私は心に決めた。

「そうそう、この人有名だったのよ」そう言って、夕子は一人の外人を私の前に連れ出した。

「待って、私、英語は苦手で……」焦る私を見て夕子は大声で笑った。いや、そこにいる全員に笑われた。

「実体がないと言ったでしょう。だから声もないのよ。会話と思っているけど、実際はテレパシーみたいなものよ。だから、英語も日本語も存在しないの」

弘子が分かり易く説明してくれた。心を覗けるのも、それに似たようなものらしい。笑いをかみ殺し、夕子は気を取り直してその外人を紹介した。

「この人、ハリウッドで活躍していたのよ。映画の衣装関係で有名だったの。ジョンよ」

「はじめまして、ジョン」私が手をさし伸ばすとその手を見て、更にくまなく舐めるように全身を見てからジョンは唸った。

「うーん、まったく分からん、見分けもつかない。本当にエイリアンか?」

私が困っていると、弘子が助けてくれた。

「私が保証するわ。今も一緒だったけど、走る速さは新幹線並みよ」

「生きている間は、色々な衣装を手がけてきた。もちろん、ヒーロー物やエイリアンまで……。しかし、実在するとは驚いた」

「いや、幽霊だって驚きますよ」私も間髪入れずに答えた。

「確かに、私も死ぬまで幽霊は信じなかったよ」ジョンは自分の言葉に大笑いした。笑い転げるジョンに、なにか能力を見せてくれと言われた。しかも、そこの全員が見たいと言い出した。そこで私は、能力の中でも自信のある口火術?を見せた。私の命名だが、口から火を吐くあれである。かなり上達し、今では自在に操ることが出来る様になっていた。

「おー、それは幽霊にも出来ないな」ジョンは笑った。みんなも笑った。幽霊は陽気なのだなと思ったが、喜怒哀楽が激しいだけなのだろう。制御する肉体が無いためにそうなるのではないかと思えた。その証拠に初めて弘子を見たときは、背筋が凍りつくような形相だった。全ては怒りからくるもので、怒りが収まれば、温和な顔だ。続いて見せた五十センチ飛行術は、みんなの興味を誘った。何故、ぴたりと五十センチなのか、皆も疑問に思ったようだ。

重力のせいではとの意見もあったが、建物の側面を登ることが出来るとなれば、重力説は覆される。飛び回るのは、幽霊の専売特許だ。それ故意見の交換にも熱がこもっていた。私が高く飛べるようにならないか、皆必死に考えてくれたが、いくら幽霊とは言え、私はエイリアンである。知らないことばかりだ。地球の尺度で測ることは出来ない。そこで私は、皆に情報カプセルを見てもらう事にした。私自身も見るのは久しぶりで、いくらかの興奮を覚えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る