第17話
二社目は、関東周辺でファミリーレストランを展開する、一応は名の通った会社だった。受付の女性も面接官も愛想や対応には申し分ない。面接の内容説明も分かりやすかった。仕事は全てマニュアル化されているようだ。マニュアルについては賛否両論がある。個性がないとか従業員が機械化するとか。私から言わせれば愚問でしかない。働く側からすれば、無駄な思考に悩まされることがなく、客側にしても同じサービスや味を提供してもらえる、そう言う安心感を得ることができる。
「今回の募集は、皿洗いと厨房補助のパートタイマーですが、問題ありませんか?」おそらく、いい親父が何でこんなパートに、と思ったに違いない。私は気にしない。あくまでも仮の姿なのだから。本職はヒーローだ。しかし、ヒーローを職業と呼べるのだろうか。給与が出るわけでも、出来高報酬をもらうわけでもない。
あくまでもボランティアにすぎないのだ。すると、本職は、皿洗いのパートさん。と言うことになりそうだ。どうでもいい事だ。パートと言っても、法の改正により、パートの待遇は向上している。中でも一番嬉しかったのは、午前十一時から働けば、昼食の賄いが食べられ、夜八時まで働けば、夕食の賄いが出る。それぞれ一食百五十円だが、表で食べるよりは、断然お得だ。私は希望勤務時間を、迷わず午前十一時から午後八時にした。ヒーローの時間をずらせば問題ない。午前十一時からの勤務ならば、深夜も人助けが出来る。午後九時から深夜二時。ヒーローの時間はこれでいいだろう。採用決定されれば、都内数箇所の店舗から選ぶことが可能で、勤務場所としても最高だった。給与もそれなりだった。九時間の拘束時間だが、昼と夜の休憩で一時間引かれ、実働八時間。時給八百二十円で一日六千五百六十円。月に二十日勤務で、十三万千二百円。家賃を払い、公共料金を払っても、十分やっていけそうだ。
しかも、勤務場所が複数から選べることによって、アパートの選択場所が増えたことにも感謝したい。面接官とも円滑に話が進んだ。しかも、面接官は、あの銀行強盗のニュースを見て私を覚えていた。
「貴方がいれば心強い」そう言いながらも口外する気はないように見えた。
そして面接官は握手を求めた。商売柄、客を装い難癖をつける人間がいる。と面接官は話してくれた。だからと言って、私の手を借りたいなどとは言わなかったが、ニュアンス的には十分に伝わった。意外なところで神様は手を差し伸べてくれた。待てよ。私の故郷には、神とかいるのかな?仏様は?第一に、宗教があるのかさえ分からなかった。後日、採用結果を連絡します、と面接官が言ったので、ホテルの電話番号も一応は書類に書き足した。どちらにしろ、採用は決定しただろうと思った。店舗のリストもしっかりともらって来たからだ。これで部屋も探しやすくなっただろう。
面接でいささか緊張したのか、喉が渇いた。近くのコンビニで、賃貸情報誌を購入して、喫茶店に飛び込んだ。
昼食も取っていないので、野菜サンドと、アイスミルクを注文した。健康的な注文だと思った。この健康的というのは地球人にとってと言うことだが……。
食事をしながら店舗リストと照らし合わせ、良さそうな不動産屋をリストアップした。勿論この、良さそう、とは賃貸料がマッチすると言った意味合いだ。
都内では、都心からの距離は変わらないが、人気のある街とない街では、賃貸料も極端に違っていた。私としては、人気があろうがなかろうが、一切気にしない。お洒落だろうが、ダサかろうが問題視はしない。いくつかめぼしい物件が揃っているところに電話を入れたが、近くだとの事で店舗まで行くことにした。
「どんな物件をお探しですか?」対応に出た若い男に、私は雑誌の一ページを見せた。
「このアパートの詳細はありませんか」男は雑誌を覗き込み、残念そうに答えた。
「その物件は、決まりました」
「では、これは」
違う物件を見せたが、返事は同じだった。更に、三件目も同様の返事がかえり、
客寄せのさくら物件だと分かった。若い男は、机の上に数々の物件を並べ、しきりに勧め始めた。しかも、こちらの予算などお構い無しだ。適当に返事をして、その店舗から逃げ出した。しつこさも然る事ながら、客の意見は完全に無視していた。付き合わされてはいられない。他の不動産屋に行ってみたが、どこも同じだった。昨日の不動産屋がまともに思え、もう一度行ってみる事にした。しかも、今日は場所などの制限が、昨日より有利だ。きっといい部件を探してくれるような気がした。
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