第15話
翌朝、気分よく目覚めた私を震撼させる出来事が起こっていた。
テレビのニュースは、昨夜の事件で持ちきりだった。あの、若作りの女性は、警察に言わなかったが、マスコミに話してしまったのだ。
(寝巻き姿の謎の男性、女性を助け、賊を退治)
なんて見出しだ。報道内容はざっとこんなところだ……。
(昨夜九時ごろ、住居侵入の賊が入り、被害者の女性をベランダから突き落とした。ところが空飛ぶ寝巻き姿の男性に助けられ、しかも賊まで退治したそう。その後男性は警官の到着を待たず、その場から姿をくらませたました。被害者の女性が言うには、ベランダから飛び去ったとの事です。)
しかもキャスターは言いたい放題だった。何故、寝巻きなのか?本当に空を飛べるのか?何故、警官の到着前に逃げ出したのか?
「逃げたとは失敬な……」
私は腹が立ったと同時に無様なヒーローだと、情けなくなった。締めくくりは、夢でも見ていたのでしょう。と来たもんだ。これでまともなコスチュームでもあれば、堂々と出来たはずだと思った。急ぐ必要がある。今日もあの焼き鳥店に行かないと……。まずはその前に朝食だ。
今日こそ昨日の挽回をしなくては、仕事と住みか。それが最重要課題だ。
昨日と同じ喫茶店でモーニングを食べ、職安に向かった。不景気なのは分かるが、求職者が多く中は混雑していた。いい仕事がないかと、皆躍起になって求職カードを見ていた。新規のカードが配布されると、我先にとカードに群がった。見ればまだまだまともと思える人間ばかりで、職探しに躍起になる様には見えなかった。リストラの嵐が吹き荒れる中、その嵐に巻き込まれたのだろう。
しかも女房子供のためにも、前職よりも待遇が悪いところへは転職できない。
給料が下がることを、女房族は認めてはくれないからだ。大変な時代だ。その点私は独り者。食うに困らない程度の収入があれば、文句はない。それよりも、大事な使命がある。ここにいる求職者の中では気楽なものだ。と、思っていたが、大間違いだった。まずは年齢。それから最終学歴に実務経験にいたるまで、私に当てはまりそうな仕事は見つからない。言い換えれば、誰も私を必要としていないのである。係りに尋ねても、難しいね、と首を傾けるだけ。
それでも、幾つかは紹介してくれたが、どれも遠くの工場勤務だった。
よく聞く期間工員で、寮は完備されているが、夜勤もあり、人助けどころの話ではない。いくら早く走れるからと言っても、毎日、都会まで来ることが出来る距離でもなかった。唯一、都会で出来る仕事は、清掃員だった。しかも、夜間のビル清掃で、ヒーローとの、二束の草鞋には向かない。
これならば、喫茶店のバイトのほうがましだった。そこで、私が思いついたのは、レストランの皿洗い。パートならば時間もきっちりとしているはずだ。無理に正社員になる必要もない。私は昨日と同じコンビニで求人誌を買った。月曜は多くの求人誌が発売される。そこで三冊ほど買い込んで、ホテルに戻った。どこかの公園でもとも思ったが、昨日のことがあり、ホテルでじっくりと読むことにした。部屋には電話もあるし、気になる求人情報があれば、直ぐ連絡できる。良さそうな情報が載っているページを折り曲げ、三冊とも目を通した。折り曲げたページを更にじっくりと読み、応募資格を丹念に調べた。結局、私でも雇ってくれそうなところは、五社ぐらいだったが、片端から電話を掛けることにした。今まで転職ばかりの私には、造作もないことだ。そのうち、二社と面接までこぎつけ、昼過ぎに訪問の約束を取り付けた。一時と、二時だ。面接の二社は、多少距離は離れてはいるが、私には問題ない。まだ時間はある。そろそろ昼食時間だ。カレーは止めよう。もう失敗はしたくもないし、する余裕もない。どちらか仕事が決まれば、その足で不動産屋を回ろうと考えていた。
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