第150話 これって路上の伝説ってヤツ?

 梅田を倒された奈夷阿婁羅斗火手武ナイアルラトホテブの連中は当初は俺の想定外の強さにビビっていたが、負けを認めて大人しく帰してくれる様な殊勝な真似はしちゃくれなかった。


 こっちが一人なのを良い事に数に物を言わせて襲い掛かって来た。


 五十対一。


 こんな状況になっても俺は逃げもせず、拳を振るい続けた。


 我ながら自分の馬鹿さ加減に呆れ果てた。


 ある有名な格闘家の路上の伝説の喧嘩は五十対二じゃなかったっけ?


 素手で襲い掛かってくるだけマシなんだろうが、それでもこの人数差は無いよな。


「ぎゃっ!」


 ―十三―


 俺のインローキックで金的を蹴られた男が蹲ると、別の男がタックルを仕掛けようと体勢を落とし、間合いを詰めてきた。


 俺はタックルを仕掛けようとする男に対し、素早く腰を向けて蹴りの体勢に入ると、膝を突き出し、膝から下を素早く前に走らせるようにして、相手の膝を前蹴ティープりで勢いを止めると、素早く足を戻し、すかさず戻した右足を軸にして、カーフキックを叩き込んだ。


「ぎゃあああっ!」


 ―十四―


 前蹴りとカーフキックで足を痛めつけられた男が堪らず転倒すると、倒れている奴を回り込む様にして他の男が襲い掛かってきた。


「死ねやっ!」


 大振りのパンチで殴りかかって来た男に対し、敢えて間合いを詰めて上に弾く様にしてパンチを受けると、空いた脇腹に左ミドルを叩き込んだ。


「ごえっ!」


 ―十五―


 蹲った男を見下ろし、倒した人数のカウントを一人足した。


 俺の記憶が正しければ、これで十五人はやった筈だ。


 だが、まだ半分もやっていないし、数分もすれば一度倒された奴等も大抵は復活するだろう。


 伊吹は鮮血塗之赤道ブラッディ・レッド・ロードの三十人をたった一人で全滅させたと言う。


 なら、アイツに勝った俺もあと十五人はやらなきゃ格好がつかないが、そろそろ限界っぽい。


「頑張るじゃねぇか! でも、もう疲れただろ?」


 リーダーらしき男が俺に訊ねて来た。


「はぁっ……ハアッ……まだまだ。丁度良い具合に身体が温まってきたところだぜ?」


「ハッ! 見え透いた虚勢を張りやがって。確かにテメーが強いのは認めてやるけどよぉ、所詮は素手ステゴロの話だろ?」


 木刀や鉄パイプなどの武器を持ちだした男達がぞろぞろと前に出て来た。


 オイオイ。


 ちっとも嬉しくないが、いよいよ路上の伝説っぽい話になって来やがったな。


「オイオイ。こちとら一人で、しかも素手なのに幾ら何でも卑怯じゃないのか?」


「知るかよ! どんな手を使っても勝ちゃ良いんだよ! 勝ちゃなあ!」


 その台詞、負けフラグっぽいけど流石にこれだけの人数に武器を持たれたら万事休すかと思われた、その時だった。


 複数台のバイク音が急接近すると共に奈夷阿婁羅斗火手武ナイアルラトホテブの連中が逃げるようにして道を開けると、その中央を二台のバイクが突っ切り、俺の目の前で見覚えのあるバイクが止まった。


 HONDA Dio110と二人乗りのYAMAHA DragStar 250から降りた合計三人が俺を庇うようにして囲んだ。


「武っチ! 大丈夫!」


 既に拳サポーターを嵌めていた流麗が俺を背で庇うようにしながら言った。


「流麗……火受美……それに孝子まで如何して?」


 麗衣には奈夷阿婁羅斗火手武ナイアルラトホテブの連中は放っておくように言われているのに何故来てしまったのだろうか?


「別に、あーし達は麗じゃないから麗衣ちゃんの言う事なんか聞く必要ないじゃん♪」


「いや……でも、麗が解散するんなら麗に義理立てる必要なんか無いだろ?」


「何言ってるの? 麗の一存が如何だろうと、麗の敵はあーし達NEO麗の敵である事は変わらないよ。武っチこそ相談なしで一人で突っ込むなんて、馬鹿だよ」


「いや……NEO麗を巻き込む訳には行かないだろ?」


「バカねぇ。武っチが全部しょい込む事なんか無いんだよ」


 流麗が俺の腕にぎゅっと捕まると、その横で赤樫製の4.2尺の丸棒を肩に引っ提げた孝子が溜息を吐きながら答えた。


「ったく……私だってこんな事、二度としないつもりだったんだけどね」


「君が如何してここに?」


 孝子はファントムにお礼参りする意向の流麗と意見で対立し、NEO麗を抜けてしまった筈だが何故流麗と共にやって来たのだろうか。


「いや……、アバラ折られて来れない神子に自分の代わりに助けて欲しいって頼まれてさ」


「神子が? まさか、あの子がそんな事言わないだろ?」


 あんなに俺の事を嫌っていた神子が俺の為にそんな事を言ったのが俄かには信じがたかった。


「孝子の言う事は事実です。私も神子から頼まれました。まぁ、私は最初から流麗に着いて行くつもりでしたけれどね」


 猜疑的な俺に対して火受美も補足した。


「如何してだろうな? 俺、あの子に嫌われているとばかり思ってたんだけど」


「勿論武っチ君、彼女に嫌われてるよ」


 孝子はずけずけと断言した。

 言われなくても分かってるけど、そんなハッキリ言わなくても良いだろ……。


「只ね、武っチ君がファントム達を倒した事を聞いて少しは見直したらしい。そういう私も、武っチ君の事、少しぐらい腕が立つだけの只の女ったらしかと思っていたけれど、今の武っチ君は本当に格好良いと思うよ」


「ほえ? 俺が?」


 まだ喧嘩が終わっていないのに、過去の評価とは180度違う扱いをされて、間抜けな声を出してしまった。


「もおっ! 駄目だよ孝子は! 武っチはあーしのモンだからね!」


 警戒した流麗が更にぎゅううっと胸を押し付けて来た。


「別に流麗から武っチ君を取ろうなんて思ってないから安心しなよ」


「オイ! テメーラ! 突然喧嘩に割り込んで来たと思ったら麗の仲間か!」


 こんな時に見せつけられ、当然の事ながら奈夷阿婁羅斗火手武ナイアルラトホテブの連中は怒り心頭の様子だった。




 井上尚弥VSアラン・ディパエン戦観ました! 巷ではディパエン選手が強かったという賞賛の声が多いようですが、私見ではほぼ予想通りというか、ディパエン選手がムエタイ出身の選手にありがちな悪い癖が出まくっていましたね。


 例えばムエタイ風のアップライト気味なガードが高い構えの為、ボディがガスガス入ってましたし、ガードがオープン気味なので井上選手の縦拳ジャブやアッパーが入りまくっていたのは以前小説でも書いた事あったかなとか思いましたw


 特にトリプルを打たれたシーンなど、ディパエン選手には悪いですが思わず笑ってしまいましたが、それでも井上選手相手に8ラウンドも戦い続けたタフさと最後まで心が折れなかった勇気には敬意を表したいと思います。

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