第147話 売られた喧嘩はほっとけ

「駄目だ! そんな連中ほっとけ!」


 日曜日。


 俺と麗のメンバー、そして流麗は麗衣の見舞いに行った。


 奈夷阿婁羅斗火手武ナイアルラトホテブなどという、某神話で出て来そうな名前の暴走族がニヤニヤ動画で麗に喧嘩を売り、勝手に喧嘩の日時を決めるとSNSで盛大に拡散したらしい。


 どうもネット上でも校内の噂と同じく麗がファントムに負けた事になっているらしく、奈夷阿婁羅斗火手武ナイアルラトホテブはこれに便乗して麗を一気に叩き潰し、名を上げようという目論見がある様だ。


 その事を知った恵は麗のメンバーを集め、入院している麗衣に代わり自分達だけで奈夷阿婁羅斗火手武ナイアルラトホテブを潰して良いか相談を持ち掛けたのだが―


「言っただろ。もう麗は解散したんだ。だから相手にする事ねぇよ」


 麗衣は恵の提案に反対した。


「でも、このままで良いの? 学校でも麗はファントムに負けたって事になっちゃっているし、こんなの酷いよ」


「別にプライドの為に喧嘩してた訳じゃねーから構わねぇよ。言いたい奴には言わせときゃいいんだよ。……それよりか、あたしが居ない所でテメーラが喧嘩して怪我でもされた方が万倍も嫌だぜ」


 恵達は尚も食い下がり、自分達の提案を受け入れてもらおうと説得するが、麗衣が決意を翻す様子は見られない。


 勝子があんな事になってしまったので、麗衣の言わんとすることも理解できる。


 だから、俺は早々に説得を諦めた。


「分かったよ麗衣。ナイ何とかって連中は放っておくわ」


 俺がアッサリと折れると、麗の面々は口々に抗議の声を上げた。


「如何して! 麗が馬鹿にされたままで良いの!」


「小碓クンはNEO麗の人間だから、もう麗は関係ないって事ですか?」


「僕は……武先輩を非難する資格はありませんけど、一寸寂しいです」


「アタシは……武先輩の言う事なら何でも聞きたいですけれど、これだけは聞けません」


「わっ……私も……一緒に戦って欲しいです」


 非難の矛先が俺に向いた。

 まぁ狙い通りだ。


「じゃあ、一寸早いけど、用事があるからそろそろおいとまするわ」


 本当はもっと麗衣と共に居たいが、そういう訳にも行かなくなってしまった。


「武! 一寸待て!」


 俺の背に麗衣の声が掛かった。


「まだ用事があるのか?」


「いや、馬鹿な真似するなよ?」


「しねーよ。俺はお前の忠実な下僕だぜ?」


 そう言いながら、俺は病室を後にした。




 ◇



「テメー……たった一人で来るなんて舐めてんのか!」


 奈夷阿婁羅斗火手武ナイアルラトホテブの特攻隊長、梅田恭輔うめだきょうすけは一人でノコノコと現れた俺の姿を見て、激怒していた。


 御大層な事にわざわざ府調市から奈夷阿婁羅斗火手武ナイアルラトホテブは麗の集合場所としていた立国川公園までやってきていたのだ。


 総勢約五十人。


 珍走と言う言葉まで死語になりつつあるこのご時世にこれだけの人数の暴走族がよく集まるよな、と的外れな感想を抱いた。

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