第145話 意外なお見舞客

 授業が終了してから、部活が始まるまで1時間の間がある。


 俺はその間に近場にある立国川病院に行き、勝子のお見舞いに行くと、病室の前で思わぬ人物と鉢合わせした。


「よう、小碓じゃねーか」


 来ていたのは意外な事に環先輩だった。


 環先輩は麗衣や勝子の事が嫌いと公言していたので、その彼女がお見舞いに来るとは正直想像もしていなかった。


「昨日は助っ人に来てくれてありがとうございます」


 俺が頭を下げると、環先輩はバツが悪そうな顔をして言った。


「いや、伊吹にはあっさりやられちまったし、殆ど役に立っていないから」


 環先輩は自嘲気味に笑った。


「でも、恵達が結構ピンチだった時に、邊琉是舞舞ベルゼブブの連中を結構倒してくれたみたいだし、アイツも感謝してましたよ」


「別にお前等を助けに来たわけじゃないしな」


 そう言って環先輩は病室に入らず、立ち去ろうとした。


「アレ? 勝子と逢っていかないんですか?」


「お前が来たのに私が居たら邪魔だろう」


「そんな事は無いですよ。話したい事があったら言ってやってください」


「いや、止め得とくわ。それよりか、お前、これから如何するんだ?」


「これから如何するかって?」


「麗は解散したらしいじゃないか。この後、お前は如何するんだ?」


「それは……」


 心に決めている事は有るが、現時点で環先輩に話すつもりは無かった。


「小碓。こんな事を何時までも続けるな。喧嘩なんか止めろ。伊吹を倒したお前の潜在能力ポテンシャルなら、格闘技のチャンピオンにもなれるだろう」


「別にプロを目指している訳じゃないんですが」


「なら、まだ路上ストリートファイトを繰り返すつもりか? 素人を甚振って何か面白い事があるか?」


 俺は厚鹿文達をぶちのめした時の虚しさを思い出した。

 麗衣を守る以前に自分を守る目的もあって始めた格闘技だが、確かに今の俺が素人に拳を振るっても只の弱い者苛めに過ぎない。


「考え方を変えろ。麗の解散は良い機会じゃないか。喧嘩は卒業してプロ格闘家を目指せ。私は世界を本気で目指しているんだ。その私の自慢の後輩になってくれる事を望んでいるよ」


 そんな事を言い残し、結局病室に入らないで環先輩は帰ってしまった。


 伊吹に敗れて尚、環先輩が世界を目指す意志は変わっていない。


 かつてはボコボコにされ、あまり良い印象が無い先輩だったが、この揺るがぬ意志の強さは参考にすべきかと思った。

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