第114話 周佐勝子VS柏次郎・阿蘇直孝

「ハハハハッ! イケメンだねぇ~まるで美夜受ちゃんみたいだよ♪」


 勝子の台詞を聞き、柏は嘲る様に言った。


「またカルシウムが足りていないアンタの柔らかい肋骨を叩き折られたいの?」


 屈辱の記憶を思い出され、柏の顔は鉄に穴をあけた様な硬く、無表情なものに変わった。


「周佐ちゃん。アレから三年近く経っているんだよ? あの頃の僕だと思わない方が良いよ」


「そうねぇ……クソゴミムシがザコゴミムシ程度には成長したかも知れないわね」


「……舐めんなよ! コラアッ!」


 口調が変わった柏は半身になると、槍の様に鋭い横蹴シャッセ・ラテラルりで襲い掛かって来た。


 勝子はスウェーバックで上半身を逸らして蹴りを躱すと、足を引き戻した蹴りを連打しようとした。


 だが、勝子も半身になり、左の横蹴りで柏の足首を当てるストッピングで蹴りを止めると、間髪入れず膝をカイ込み、中足を返した中段廻し蹴りで柏の脇腹を打ち、更に膝の高さを変えずに上段廻し蹴りを放つと、柏のガードをすり抜けてこめかみを打つと、二歩、三歩と後退した後、バランスを崩して地面に尻を着いた。


「まさか……三段蹴り!」


 二発目以降はテコンドーの二段蹴りと同じ蹴りだが、勝子は最初の蹴りをジャブ的に放ち柏の蹴りを封じ、二段目で脇腹を、三段目で頭部を狙い三段蹴りと言うべき蹴りを打ったのだった。


 しかも、普通の二段蹴りはどちらかと言えば牽制や威嚇に使うものであり、背足と呼ばれる足の甲で蹴るが、勝子が放った蹴りは中足という反った足の指の腹を返して蹴っているので、KOを狙える威力を秘めていた。


「サバットやってるんだって? でも、そんなに引き足が遅いんじゃ私には当たらないよ♪」


 かつてテコンドーの使い手である岡本忠男を倒した勝子からすれば柏のスピードもスローなものに感じていた。


「調子に乗ってるんじゃねーぞ!」


 阿蘇が巨体に似合わぬスピードでステップインしながら左ジャブを放つと、勝子は脇腹から肩のラインに沿って前腕を真上に跳ね上げ、ジャブを弾くと同時に距離を詰め、右膝をカイ込むと体重が掛かった阿蘇の左膝に乗り、階段を昇るかのように駆け上ると左膝で阿蘇の顎を突き上げた。


「がはっ!」


 膝がクリーンヒットした阿蘇は勢いよく後方に倒れた。


 体重46キロ程度の勝子とは言え、全体重を乗せた膝蹴りを顎に喰らえば格闘技経験者であってもひとたまりも無い。


「これって、まさかシャイニングウィザード?」


 唖然とした表情で香月が似たプロレス技の名前を上げた。


「以前、武も同じこと言ってたかな? コレ、私が思い付きでやったオリジナルなんだけどね。まぁ、そんな事は如何でも良いんだけど」


 勝子はよろめきながら立ち上がろうとする二人を見下ろしながら言った。


「アンタ達、こんなモノなの? 昔から全然成長して無いんじゃない? 私なんかブランクがあるから少し弱くなってるハズなんだけどね♪」


「テメェ……いい気になるなよ……」


 阿蘇は地面に手を着き、何とか立ち上がったが、すぐによろめいて転倒した。


「凄い……」


 NEO麗の神子と火受美が全く敵わなかったという相手が二人がかりでも寄せ付けない勝子の強さに香織は驚愕していた。


「さてと……アンタがこのクソゴミムシ達の親玉? こんな雑魚虫を何匹連れて来ても私達、麗の敵じゃないわよ」


 柏と阿蘇は自分の敵では無いと踏んだ勝子は彼らのリーダーと睨んだ伊吹に言った。


「テメェが周佐勝子か。聞いた話だと女子のエドウィン・バレロとか言われていたらしいな」


「それが如何したの?」


「少しは期待していたんだけどなぁ、テメェにはガッカリしたぜ……バレロが蹴りなんか使うか?」


「はぁ? 喧嘩なのに何を言っているの? それに……」


 これはボクシングの試合では無い。


 そう言いかけた勝子は伊吹が握る銃を見て口を閉ざした。


「喧嘩ならコイツを使っても文句ねぇって事だよなぁ?」


 M360J SAKURAの銃口を向けられ、流石の勝子の表情にも緊張が走った。


「どうやら偽物じゃあなさそうね……でも、こんなモノに頼ってまでアンタの目的は何なの?」


「俺の目的か?」


 伊吹が微笑を浮かべると、躊躇なくトリガーを引き、乾いた銃声が鳴り響いた。


「うわああああああっ!」


 勝子が地面に倒れると、水道の蛇口を捻ったかのように大量の血が太腿から噴出していた。


「俺の目的はなぁ……兄貴を殺す事だ」

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