第113話 最悪な再会

「いやぁ~お久しぶりだねぇ周佐ちゃん。すっごく会いたかったよ♪」


 柏は薄気味悪い笑顔を浮かべながら勝子に話しかけてきた。


 字面だけ見ると親しい者に対する挨拶の様にも見えるが、当然の事ながら心温まる再会などでは無い。


「お久しぶりですねクソゴミムシ先輩。私も会いたかったですよ♪わざわざ火の中に虫が飛び込んで来てくれたんですからねぇ♪」


 勝子も柏同様の笑顔を浮かべていたが、柏が執念深い蛇の如き意志を押し隠した笑みであるのに対し、勝子は格下を嘲り、見下した笑みであり、それを感じ取った柏から偽りの笑みを剝ぎ取った。


「オイ周佐! テメェ俺の事覚えているんだろうなぁ!」


 阿蘇が肩を怒らせながら大声で怒鳴った。


 気が弱い者であれば、それだけで肝が竦み、半べそでも掻きそうなものだが、勝子は柏に対して同様、見下す様な笑みを崩そうとしない。


「ああ! 阿蘇クソゴミムシのおやだま先輩じゃないですかぁ~『物が二重に見えるんだぁ~助けてくれぇ~』って泣きながら命乞いしてた先輩のクッソ無様で笑えるお姿を忘れる訳ないじゃないですかぁ♪あの後も恥ずかしくも無く自殺もしないでご息災で何よりですぅ♪」


「テメェ……!」


 顔色を変えた阿蘇が掴みかかろうとすると、その前に伊吹が立ち塞がった。


「テメェが周佐か。思ったよりもチビだな」


「そういうアンタもおチビちゃんじゃない♪女の子かと思ったよ」


 勝子は伊吹の事も挑発し、阿蘇と柏の間に空気が凍り付いたような緊張が走る。

 だが、伊吹は大して気にした様子も無く、愉快そうに笑いだした。


「ハハハッ! 確かに背が低いのは認めてやんよ!」


「で、アンタがファントムとか言うダッサイあだ名の中二病の人? なら用事があるんだけど?」


「奇遇だなぁ……俺自体はテメーには然程興味ねーけど、アイツ等はテメーに御執心だからな……場所を変えようか」




 ◇




「勝子先輩……麗衣先輩達を呼ばなくて大丈夫でしょうか?」


 喧嘩場所として連れられてきた駐車場へ着くと、香織は小声で勝子に訊ねた。


「大丈夫よ。クソゴミムシ阿蘇クソゴミムシのおやだま程度の雑魚、私一人で何とかなるし、アイツ等なんか連れまわしてイキっている辺り、どーせあのチビも大した事無いでしょ?」


「でも……アイツ等は……昔……」


 香織は何かを言いかけて口を閉ざした。


 勝子自身は例え三人が相手でも全く負ける気は無いが、普段は勝気な香織が脅え切っている事に気付き、香織を少しでも安心させてやる必要性を感じていた。


「じゃあ念の為にLIMEで麗衣ちゃんと十戸武に場所を知らせて連絡しておいて。香月は香織を守ってあげて」


「ハイ。分かりました……」


「香織ちゃんは僕が必ず守って見せます!」


 二人が頷くと、話を聞いていた伊吹が不意に笑い出した。


「ハハハッ! オイ! 柏! 阿蘇! あのビッチ、見覚えがねーか!」


 伊吹に言われ、柏と阿蘇が目を細めて香織をまじまじと見つけると、香月がその視線を遮る様に前に立った。


 だが、柏と阿蘇は香織を同時に指さすと欲望で歪んだ醜悪な笑いを浮かべた。


「あ~思い出したよ! 以前この街にファントムに来て貰った時、僕達が輪姦まわした子ジャン!」


「オッ! あの時の雌豚じゃねーか! 土手焼き最高に楽しかったよなぁ!」


 二人が品無く笑いだすと、香織はその場にへたり込む様に座り込んだ。


 勝子と香月は後ろの香織の方を振り返り、その様子から事実である事を悟ってしまった。


「この野郎!」


 血液が沸騰した香月は一番近くに居る柏に殴り掛かろうとしたが、その肩に勝子が手を置いた。



「勝子先輩! 僕にやらせてください!」


「駄目よ! 貴方は香織の事を守ってあげてと言っているでしょ?」


「でも……」


 香月は勝子が伊吹に向ける表情を見て、味方でありながら恐怖心が喚起させられた。


「大丈夫。貴方の想いも、香織の恨みも全部私がアイツ等にぶつけてやるから!」

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