第112話 フェアじゃないので

 武が麗衣から連絡を受ける二時間前―


 勝子、香織、それに香月のグループは立国川駅から少し離れたボウリング場で聞き込みを行っていた。


「中々情報がありませんねぇ……」


 聞き込みははかどらず、それどころか何回も逆ナンパと勘違いされ、見た目に反しノン気の香月はウンザリとしていた。


「そうねぇ……アイツ等、昔はここら辺の不良ワルの間じゃ結構有名だったから知り合いぐらい居るかと思っていたけど」


 成果も挙げられず、探し人は今日は見つかりそうもないのではないかと諦めかけ、勝子には弛緩した雰囲気が漂っていた。


 敬愛する麗衣も、弄り対象の武も別行動をしている為に居ないので勝子は面白くなさそうだった。


 そんな勝子の不満を知ってから知らずか、香織は勝子に訊ねた。


「こんな時に聞くのも変かも知れませんが、やっぱり武先輩と居た方が楽しいでしょうか?」


「うん。下僕武のご主人様として、しっかりと弄り倒さないと駄目だって義務感もあるしねぇ」


 それは香織にとって理解し難い返事だったので、更に踏み込んで勝子に訊ねた。


「率直に聞きますけど、勝子先輩って武先輩の事好きですか?」


「……はっ?」


 一瞬勝子は何を言われたのか分からず、目をパチクリと何回も瞬かせていた。


「だから、勝子先輩は武先輩とお付き合いしたいとか考えたことありますか?」


「はああああああっ!? そっ……そんな訳ないじゃない!」


 ようやく思考が追い付いた勝子ははっきりと否定したが、動揺を隠しきれない様子だった。


「麗衣ちゃんの下着の色と柄を毎日欠かさずチェックしていて何月何日にどんな下着を履いていたかって訊ねても正確に答えられるような様な変態! 好きになる訳ないじゃない!」


 実は勝子も同じ事を行っていた共犯であるのだが、それはとにかくとして、暴露された事実にドン引きしながら、香織は負けじと(?)話を続けた。


「でっ……でも、御二人って物凄く仲良いですよね? 最近は流麗ちゃんと一緒に居る事も多いですけど、基本的に武先輩っていつも勝子先輩と一緒に居ますよね?」


「それは! アイツが男の友達が居なくて寂しいだろうからし・か・た・な・く! 一緒に居てあげているだけなの!」


 実際は武達が暴走族狩りをしている麗のメンバーである事は知れ渡ってしまった為、恐れられていることと、昔苛めていた連中が仕返しを恐れて武と関わらない様にしていたので友達が出来ないのだ。


 だが詳しい事情は知らず、武に男友達が居ないのも香織には信じられない事だった。


「さっ……流石にお一人ぐらいは居るんじゃないでしょうか?」


「さぁ? 亮磨先輩ぐらいのものでしょ? で、何で急に変な事を聞いてきたの?」


「その……フェアじゃないと思ったからです」


「フェアじゃない?」


 香織に言わんとしている意味が解らずに勝子は首を傾げた。


「ハイ。もし、勝子先輩が武先輩に気があるのでしたら、同じ麗のメンバーの後輩として、先ずは勝子先輩を立てなきゃダメかなと思いまして」


「いや……だから、下僕武に対しては下僕という認識しか無いよ」


「でしたら、アタシ、武先輩に告白して良いんですね?」


「……はっ? 今何て言ったの?」


「武先輩に告白しようと思っています。アタシ、武先輩とお付き合いしたいんです」


 勝子は不思議そうな顔で香織を見つめると、自分のおでこと香織のおでこに掌を当てて本気で心配そうに言った。


「ちょっとアンタ大丈夫? 熱でもあるんじゃない?」


「もおっ! アタシは本気ですよ!」


 勝子のふざけた態度に対して、勝気ながらも普段は礼儀正しい香織が珍しく怒ったので、ようやく香織が本気であると理解した。


「ゴメン。でも、アイツのどんなところが気に入ったの? 麗衣ちゃんに踏まれながらパンツ覗いて喜んでいるような変態だよ?」


 自分の事を棚に上げて勝子は武の事をあしざまに言った。


「いや……、その、可愛いし、努力家ですし、凄く強いじゃないですかぁ!」


「確かに普段はポサッとしてるけど、やる時はやるからねぇ」


「そうですよね! この前の浄御原和博を倒した時は鳥肌ものでしたものね!」


「そうそう。アレには私も感動したね。前はあんなに弱っちかったのに、半年一寸でよくあそこまで強くなったってね」


「やっぱり勝子先輩、武先輩の事よく見てますねぇ……やっぱり先に告白します?」


「無い無い、それだけは絶対に無いから! それにアイツが好きな人は……」


 何かを言いかけたその時、勝子はコイバナに花を咲かす、ありふれた女子高生の表情から、獲物を見つけた狩人の様な表情に一変した。


「見つけた……。どうやらやっこさん達も同じ要件みたいよ」


 鋭くなった勝子の視線の先を追うと、香織の表情は凍り付いた。

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