第106話 因果応報

 世の中には決して関わってはいけないタイプが居るらしい。


 私はアマチュア最強と呼ばれている環姉さんや日本拳法で女子高校生ではトップクラスの実力を誇った姫野君と一緒に過ぎして来たから、人からそんな話を聞いても正直ピンとこなかったし、道場でもそんな危険を感じさせる男と遭った事が無かった。


 でも、自分よりも背が低いこの小男みて直感した。


 コイツはヤバイ。


 コイツとは絶対に関わってはいけない。


 そんな直感が私に危機を訴えていた。


「神子! 逃げるよ!」


 神子の手を引いて逃げようとすると、小男の連れと思しき二人の男が道を塞いだ。


 コイツ等もあの小男程でないにしろ、ヤバいとすぐに悟った。


「何よ! アンタ等!」


 神子はこんなヤバそうな連中相手にも強気な姿勢を崩そうとしない。

 でも、神子も今まで喧嘩をして来た連中とは訳が違うと本能では悟っているのか?

 心なしか、少し震えているように見えた。


「いやぁ~ウチのボスが麗に御執心でねぇ……ここを通すわけには行かないのよ♪」


 ツーブロックにベージュ系ハイトーンカラーのスパイラルパーマをかけた身長175センチぐらいの男は笑いながら言ったけれど、その目は笑っていない。


「何言ってんだ? 柏だって麗に用があるだろ?」


 身長180センチ半ばのワイルドツーブロックの髪型をした、恰幅の良い男はスパイラルパーマをかけた男を柏と呼んでいた。


「そうそう。阿蘇君だって周佐ちゃんに借りを返したいんだったよね♪」


 ワイルドツーブロックの大男は阿蘇と言うのか。

 この男達は周佐先輩の事を知っているのか?


「るせーな! それはテメーも同じだろうが?」


 阿蘇が怒鳴り声を上げて睨みつけても柏はニヤニヤとした笑顔を絶やさないけれど相変わらず目は笑っていない。


「周佐って……まさか周佐勝子先輩の事?」


「へぇ……周佐勝子ねぇ……少なくても知った仲なんだね♪」


 神子のバカっ!


 先程NEO麗を名乗ったのは噓だったとシラを切る事も出来たが、神子が率直に訊ねてしまった事で私達と麗の関りの深さが否定できなくなってしまった。


「正直だねぇ……こりゃあすぐに周佐ちゃん達に辿り着けそうだね♪」


 二人の男達がこちらにじりじりと距離を詰めて来る。


 ヤルしかないか?


 私が前に出ようとすると、神子は私の前に立った。


「あの二人は私がヤルよ……火受美は私の背を守ってくれない?」


 神子が拳サポーターを取り出して両手に嵌めると、スパイラルパーマの男は細い目を更に細めながら大男に訊ねた。


「へぇー……面白い事を言う子だね? 笑えないけど……ねぇ、阿蘇君。この子、やっちゃっていい?」


「ああ。構わねーよ。それよっか、アイツのツレは何処かで見覚えがあるムカつく顔してるかと思えば、織戸橘そっくりじゃねーか」


 私の顔を見て、阿蘇と言う大男は訊ねてきた。


「テメー織戸橘姫野の妹かぁ?」


 過去に姫野君にやられた事でもあるのだろうか?


 日本拳法の強豪で知られた姫野君は美夜受麗衣先輩を始め、不良達に付け狙われる事が多かったらしいけれど、ことごとく返り討ちにしていたらしい。


「さぁ? 如何だろうね?」


 正直に返事してやる義理は無いし、妹だなどと馬鹿正直に話せば怒りを買うのは目に見えていたから、はぐらかしたが阿蘇は額に血管を浮かばせ、こちらを睨みつけてきた。


「しらばっくれてんじゃねーぞ! テメーの姉貴には借りがあるから、妹で利子をつけて返させて貰うぜ!」


 いや、妹の私じゃなくて、姫野君に返してくれよ。


 そんな軽口も叩ける気力が無かった。


 コイツ等二人にも勝てるか分からないのに、後ろの奴が明らかにヤバすぎるからだ。


 でも、後ろの小男は私の不安を見抜いたかのように言った。


「そんなビビんなよ。こっちに逃げてさえこなけりゃあ、俺は手出ししねーからよぉ」


 それだけ言うと、小男は私達に興味を無くしたかのようにスマホを弄り出した。


「ハイハイ。話もまとまった様だし! 俺達とちょいとばかり遊んで行こうよ♪」


 そう言って、スパイラルパーマの男が前に出てきた。


「柏! テメー抜け駆けすんなよ!」


「織戸橘先輩の妹ちゃんなら残しておくから僕が先にやって良いだろ? それに、仲間がやられる恐怖を植え付けてやって、一人になって絶望的な状況で痛めつけてやった方が良いんじゃない?」


 スパイラルパーマの男、柏と言う男を殴り倒さんばかりの勢いで阿蘇は激怒していたが、柏の話を聞くと神妙な顔になり、ニタアっと口元に醜悪な笑みを浮かべると嬉しそうに言った。


「……それもそうかも知れねーな……全く、テメーは悪魔みたいな奴だなぁ?」


「君ほど悪魔的じゃないけどね。まぁ、彼女達が麗か麗の舎弟の兵隊だったら、ウォーミングアップに丁度良いでしょ?」


 これを因果応報と言うのか?


 今まで私達は不良を追い詰める立場だったけれど、今は逆に逃げ場も無く追い詰められる立場になっていた。



 先日ONEで行われた試合のスーパーボン選手がペトロシアン選手にハイキックでKOしたことについて、「あれはスーパーボン選手が仕掛けた罠にかかった」という魔裟斗さんと「ペトロシアン選手のミスだった」という那須川選手で見解が分かれて、ファンの間でも論争が起こっている感じですね。(因みにKOシーンのキックを那須川選手はミドルキックと言っていますが公式の結果ではハイキックになっています)


 個人的にはKOシーンの部分的な主張を見れば那須川選手の方が近い気がしますが、試合全体の流れを見れば魔裟斗さんのが正しいように見えます。(そもそも相手のミスを誘うのも罠なので)インタビューでもすれば明らかになりそうですが、真相はペトロシアン選手とスーパーボン選手の二人しか分からないでしょうね。多分見解が分かれたのは対戦相手を研究する魔裟斗さんと、あまり研究しなくても対戦相手を倒してしまえる那須川選手の性格の違いかも知れません。

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