第102話 MMA打撃クラスの練習⑴
ボクシングの練習が終了後、ジムに行った。
今日はMMA打撃クラスの練習日だ。
MMA打撃クラスはキックボクシングのクラスで習うようなパンチやキックの他、テイクダウンまでの流れを練習するのがキックボクシングのクラスとの大きな違いだ。
また、ストレッチの他、マット運動を行うのもキックボクシングとの違いで、前転、後転、開脚前転、開脚後転、倒立前転、倒立後転、飛び込み前転、側転、ハンドスプリング、ヘッドスプリング、倒立歩行などを行った。
そして、次は前進しながら打撃練習だ。
会員が三列に並び、トレーナーの合図とともに前進しながら打撃練習を行う。空手で言う移動稽古のことだ。
この日行ったメニューだと最初はパンチのみのコンビネーションからはじまり、1回目はワンツー。2回目はワンツー左フック。3回目は左フックから右アッパー。
次はパンチとキックをコンビネーションで、1回目がワンツーから右ミドルキック。2回目がジャブから右ローキック。3回目が左ローキックから右ハイキック。
最後はパンチやキックの後にタックル動作を行うコンビネーションだ。
1回目はワンツーからタックル。2回目は右ミドルキックの後、蹴り足を前に落としてタックル。3回目は右ローキックの後、蹴り足を前に落としてタックル。
これらが終了すると、次は対人で練習を行う。先ずはミット打ちだが、これもキックの打撃練習とは異なり、タックルの攻防を想定した練習のドリルとなる。
「ワンツー!」
キッククラスでも良く一緒に練習をさせて貰っている
そして、すぐに立ち上がると竹内さんの立ち上がりざま、右ストレートをミットに打ち込む。
するとパンチを受ける為に腋が開いた竹内さんに対して、俺は前足を踏み込み、両足タックルを決めると、後ろ足を引き付け、竹内さんを持ち上げて体を少し浮かした。
これがドリル1。
「ワンツーフック!」
今度はワンツーフックの三連打の指示が飛び、俺は素早くワンツーフックを打ち込むと、竹内さんはミットを持ったまま胴タックルを仕掛けてきた。
それに対し、俺は両手を腕の内側に差すと、体勢を低くして下から上に押し上げるようにして前方へ出て、竹内さんを突き放すと右ストレートをミットに叩きつけた。
これがドリル2。
「ワンツータックル!」
次の指示で今までと同じ様にワンツーを打った後、武内さんは返しに左フックを打ち返す動作を取ると、俺はダッキングで身を屈めて攻撃を躱すと共に前へ出て、胴タックルを仕掛け、竹内さんの左側の外へ頭をつけた有利なポジションを取った。
これがドリル3。
「右ミドル!」
最後はミドルキックだ。
ボクシングとキックボクシングの中間ぐらいに構える総合の基本の構えから、左足を開き気味にしつつ素早く腰を前に突き出すようにして、相手にタックルの隙を与えない様に蹴り足は身体の外から大きく回転させるのではなく、相手に向かって直線的にコンパクトに振り、蹴り足を放り投げるようにして打つのが総合のミドルキックの打ち方だ。
俺がこのミドルをミットに打ち込むと、蹴りを素早く引き、両腕を前方に伸ばし、空手で言う「猫足立」の姿勢で体を引いた。
何故蹴った後に猫足立になるかと言うと、蹴った後、蹴り足を引かずに蹴り込んだままでいると、足が浮いた不安定な体勢でカウンターのタックルを受ける可能性があり、その場合、簡単に倒されてしまうからだ。
猫足立の様に蹴り足を直ぐに引いて手を伸ばした状態をつくれば、懐の深さでタックルを入れられず、相手を止めて膝蹴りを入れられるからだ。
これがドリル4。
これらのドリルはそれぞれ5、6回ずつ行った。
ミット打ちのドリルが終わると、次は総合版の受け返しだ。
受け返しとは空手で言う約束組手の事で、予めどの様な攻撃を行うか決めて、受け側と攻め側に分かれて受けの防御と返しの攻撃を練習する事だ。
先ずは俺が受け側で竹内さんが攻め側で行った。
互いに基本姿勢を取り、腕の位置や脚の開きなど隙が無いかチェックし、竹内さんが前蹴りを行うと、俺はその脚の振出しに合わせて、腕で払った。
実戦でも通用する様に蹴りのスピードや腕の払いは出来る限り早く行った。
まぁ、これはキッククラスでも行われる受け返しで初級クラスでもやる様な基本中の基本だが、次は総合らしい受け返しの練習だ。
武内さんの蹴りに合わせてディフェンスの体勢を取ると、右脚を斜め右後ろにステップしながら前の手で蹴り足を払い、そのまま左脚を武内さん側に進め、懐に入り胴タックルを決めると、武内さんは後ろに倒れた。
「はやっ! 良い感じだね!」
武内さんは立ち上がりながらそう褒めてくれた。
「いやぁ、レスリング技術も中々な感じになって来たんじゃない? 元々ボクシングが得意だから、
北米スタイルとは簡単に言えばボクシングとレスリング技術を重視したスタイルの事で、一時期UFCなどでもこのスタイルが座圏した時期があった。
因みにこの北米スタイルに対して、空手やムエタイと柔術のスキルを重視したスタイルを南米スタイルと言う。
一般的に南米スタイルの方が有利らしいが、北米スタイルでもフィジカルが強い選手なら南米スタイルも圧倒したりする事もあるので、一概にどちらが良いとは言えないし、最近は単純にこれらのスタイルに分類できない選手も多い。
「いやぁ、流石にMMAの選手目指すのは厳しいですよ」
総合クラスへの参加はクロストレーニングの一環、そして喧嘩対策として割り切っており、本業はあくまでもキックボクシングのつもりだ。
「じゃあ、今度のスパーリング大会ではキックで参加するんだ。美夜受ちゃんは総合でエントリーする気らしいけどね」
スパーリング大会とは同じ系列のジムと友好団体で近隣にある格闘技ジムで合同して行われるスパーリング大会の事だが、完全に試合形式の練習試合の様なものなのでアマチュア戦績としてもカウントされるらしい。
「まぁ、女子キックじゃ敵が居ませんからね」
「だとしたら、わざわざアマの総合なんかやらなくたってキックでプロ入りすれば良いと思うけどねぇ」
麗衣がプロ入りしたがらない理由は知っているが、俺はわざと惚けて見せた。
「まだ高校生ですし早いんじゃないですか?」
「そうかな? 最近は現役JKで活躍しているプロキックボクサーって増えているし、勿体なくない?」
「それはそうかも知れませんけど……本人の意思もありますからねぇ」
俺も麗衣が下手に総合にチャレンジするよりキックでプロ入りした方が良いとは思うが、タケル君の敵討ちを果たすまでは喧嘩対策でやっているんだろうな。
「お、噂をすれば美夜受ちゃんのスパーの番だね。相手は十戸武ちゃんか」
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