第86話 美夜受麗衣VS杉元羅王⑴ ムエタイVSジークンドー

 立国川市と隣接する国分小金井寺市の河川に掛かる堀川橋。


 MIDNIGHT EMPRESSなる暴走族が40人程の規模で待ち受けていた。


「おおっ。頭が悪そうなクズどもが大勢居やがるな……全員ぶっ潰してやろうか?」


 麗衣先輩は害虫を見る様な眼で連中を見渡すと、そう息巻いた。


「まぁまぁ麗衣さん。向こうは5対5で代表を決めてタイマンするって提案しているし……こっちからそれを破るのは良くないよ」


 恵先輩はそう言って麗衣先輩を宥めた。


 もっとも、何時ものパターンだとタイマンや代表同士の喧嘩で勝利した後も敗北を認めず、数にものを言わせて集団で襲い掛かってくる場合が殆どだけれど、人数的にはこちらのが不利だから出来ればタイマンで済ませたい。


 こちらのメンバーは麗衣先輩、勝子先輩、十戸武先輩、澪ちゃん、静江ちゃん、香織ちゃん、それと僕に前回の喧嘩以来助っ人出来てくれている音夢先輩と玖珠薇先輩の合計9人だ。


 実力的にはナンバー3か4ぐらいの武先輩が今はNEO麗に所属しているのでこの場には居ないのは正直心細いけれど、代わりに音夢先輩と玖珠薇先輩が来てくれたのは助かった。


「ハイハイ。じゃあ、最初はいつも通りあたしから行くからな」


 車一台程度の幅しかない橋の中央にはまるで映画マッドマックスに登場しそうな革ジャン姿のモヒカンが待ち受けていた。


 そのおどろおどろしい姿に、怖いと言うよりやられ役のコスプレをしている様な滑稽な印象しか受けなかった。


 この姿で日常生活を過ごすとしたら不便じゃないかと思うし、突っ張りながら生きていくのも大変そうだな。


 麗衣先輩がモヒカンのもとへ行くと、先制撃を仕掛けた。


「テメー何時の時代の世紀末雑魚者だ? 頭部が爆ぜて笑える死に様でも見せてくれるのか?」


 麗衣先輩はマッドマックスじゃなくてマッドマックスをモチーフとした超有名アニメネタを言っていた。


 元ネタが分かる僕が言うのも何だけど、結構オジサン臭い事も知っているんだな……。


「あ? この男らしいセンスのよさが分かんねーのか? ヤリマンのアバズレが! 犯して堀川に沈めんぞ!」


「ヤレルもんならやってみやがれ! 不能にしてやるから掛かって来いよ!」


 麗衣先輩は左に手を構えたオーソドックススタイルのフルコンタクト空手風の構えを取ると、モヒカンは蟹股で足を大きく開き、上体を後方に引き、両腕を腰の辺りに構えると、極端な半身に構えた。


「空手とも違うな……何やってるんだ?」


「ハッ! 聞いて驚くなよ? 截拳道ジークンドーだぜ!」


 截拳道と言えば、アクション映画の俳優で日本でも著名なブルース・リーが創設した武術だ。


「そうかい。ますますフィクションっぽい野郎だな。でも、テメーはどうみてもヒーローじゃなくて雑魚キャラ面だろうが?」


 そう言えばあの漫画の主人公もブルース・リーをモチーフにしてたんだっけな?


 そのキャラに限らず、ブルース・リーをモチーフにした作品ってやたら多いけど、その割には現実のプロ格闘家で截拳道出身って聞いた事無いけど。


「るせーぞ! テメーにはワンインチパンチを喰らわしてやらぁ!」


 ワンインチパンチなどと言いながら、モヒカンは素早く左足刀を飛ばして来た。


「おっと!」


 殆ど横向きの半身から放たれる足刀はカウンターを入れづらいので、麗衣先輩はステップバックして足刀を避けるが、モヒカンは引いた左足を元に戻すと左足を軸にして、左足を踏み込んだ勢いを利用して右の後ろ回し蹴りを麗衣先輩のこめかみに向けて放った。


「うおっ!」


 虚を突いた攻撃を麗衣先輩は上体を反らすスウェーで何とか避けたけど、モヒカンは振り下ろした右足を地面に着けると、更に左の上段回し蹴りで追い打ちを掛けた。


「ぐっ!」


 麗衣先輩はガードを上げて上段蹴りを防ごうとするけど、上足底で放たれた蹴りはガードを掻い潜り、麗衣先輩のこめかみに命中すると、麗衣先輩は大きくよろめいた。


「ほあたあっー!」


 わざとらしい奇声を上げながらモヒカンは追撃を掛けてくる。


 だが、馬鹿げた姿と奇声ながらも動きは体格からは考えられない程素早かった。


 モヒカンは腰を回しながら左足の膝を体に引き寄せる様に上げ、腰の回転で右半身になり、鞭のようにしなやかに左足刀で麗衣先輩の腹を蹴ると、蹴り足を素早く引き、腰を押し出すようにして蹴り込みで顔面を打った。


「痛っ!」


 3発も蹴りをまともに喰らった麗衣先輩は鮮血を撒き散らしながら堪らず地面に尻餅を着いた。

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