第87話 美夜受麗衣VS杉元羅王⑵ 蹴りの対決
「麗衣さん!」
「「「麗衣先輩!」」」
「良いぞ! ぶっ殺せ!」
「そのままひん剥いて下の毛までむしり取ってヤレ!」
恵先輩や僕達一年生組の悲鳴を上げるのと対称的に、敵の方からは下卑た歓声が上がった。
「ははははっ! 噂の麗もこんなもんかよ!」
モヒカンは麗衣先輩を見下ろしながら笑った。
「中々やるじゃねーか。蹴りをまともに喰らうのは久々だぜ。……テメー名前何って言うんだ?」
麗衣先輩は鼻血を手の甲で拭いながらモヒカンに訊ねた。
「俺様は
何かクリスタルキングのBGMが似合いそうな、すっごくホームラン打ちそうな名前だな。
名前はとにかく、最近益々強くなっている麗衣先輩をこれだけ苦しめるとは只者ではない。
「成程、テメーラのナンバーツーってとこか。イロモンかと思って舐めてて悪かったな」
麗衣先輩はスクっと立ち上がると、本気になった時のサウスポースタイルのムエタイの構えに変えた。
「テメーの欠点は見抜いた。お遊びは終わりだぜ」
麗衣先輩はタンタンと前足で軽くリズムを取りながら宣言した。
「お遊びは終わりだぁ? 鼻血垂らしながらイキってるんじゃねーぞ!」
この男は何も分かっていない。
一見ボロボロに見えるけど、麗衣先輩が強いのはここからなんだ。
麗衣先輩は前足を先に出してから後ろ足を引く通常のステップではなく、後ろ足を前足に引き付けた後、前足を出す所謂メキシンカンのステップで杉元に接近して右から外を取ると、いきなり左のストレートを杉元に放った。
反応よく杉元はスウェーで上体を反らしパンチを躱したが、パンチで上体に意識が向いたところ、麗衣先輩は足を叩き割らんばかり右ローキックを打ち込んだ。
「つうっ!」
半身で、しかもスウェーしていた事により回避できず、まともにローキックを喰らった杉元は苦痛の声を上げた。
更に麗衣先輩は蹴り足で地面を踏み軸足にすると、左足で内股をインローキックで蹴り、素早く蹴り足を戻すと、身体ごとぶつけるような勢いで躊躇なく左ミドルキックを杉元にぶちかました。
「うぐうっ!」
肝臓を直撃したのだろうか?
杉元は呻きながら腹を抱えた。
ムエタイの選手にサウスポーが多いのは理由があって、体の右側に肝臓があるからそこを蹴ると大ダメージを与えられるからであるから、腹部を蹴り込むには右ミドルよりも左ミドルの方が有効であるからという話を武先輩から聞いた事がある。
まさしく今がその状況なのだ。
「オラオラ! さっきまでの勢いは如何したっ!」
麗衣先輩は左ミドルを再び打つと、堪らず杉元は腕で受けてしまった。
キックボクサーですらミドルキックを腕で受けてしまう事が多いけれど、殆どの格闘技がミドルキックを膝でカットする技術が無く腕で防いでしまうのだ。
あれでは腕が持たないだろうな。
麗衣先輩は腕を叩き折るつもりでミドルを打っているから腕で受け止められること自体は全く構わないのだ。
二発、三発と腕で受け、みるみるうちに杉元の表情は険しい物と化して行った。
そして、左ミドルのリズムに杉元が慣れたところ左ミドルのフェイントで意識を中段に向け、下段へローキックを打つと杉元の体が大きく泳いだ。
「調子に乗るなよ! このクソアマっ!」
自棄になってスーパーマンパンチで反撃を仕掛けてきたが、ローキックで踏ん張りを無くして手打ちになったパンチなど怖く無い。
軽くダッキングでパンチを躱した麗衣先輩はカウンターの左ストレートで杉元の顔面を打ち抜き、直後にほぼ同時のタイミングで放たれていた左ミドルがボディに減り込んだ。
これは女子ムエタイの強豪ジャネット・トッドが得意とするコンビネーションで試合で相手をKOした事もある技術だ。
「ぐうううっ!」
意識を完全に上にやっていた時に肝臓を打たれては堪らないだろう。
杉元は腹を抱え込んで蹲った。
「まだやるかい?」
麗衣先輩が訊ねると、完全に戦意を喪失した杉元は麗衣先輩の足元で力なく首を振った。
◇
野球観戦中にクリスタルキングの「愛を取り戻せ」かTOM☆CATの「TOUGH BOY」が流れる度に嫌な予感しかしません。
て、今日(九月十日)も打たれましたか。。。応援チーム以外の試合で打つのは応援してますw
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます