第61話 神子の不安は杞憂とは言えないと自分でも認めざるを得ない
「喧嘩の日決まったから。今週の金曜日、アイツ等の旧校舎の校庭で19時だってさ」
人気が無い校舎裏に行くと、そこで待って居た火受美は開口一番そう言った。
「さっき連絡が来てさぁ、首洗って待ってろだってさ」
「それはこっちの台詞だって言うの!」
神子がキレ気味に言うと、火受美は軽く頷いた。
「うん。私もそう言っておいた」
「火受美エライ。でも、出来れば火受美の怪我が完治するまで期間が欲しかったよね」
「いや、流麗、今回、私はコイツを使うから」
火受美がブレザーを脱ぐと、ショルダーホルダーに警棒が入っていた。
「姫野先輩も
「ハイ。姫野君とはよく稽古をしていました」
「火受美がナイフで膝切られた時、警棒持っていなかったからね。あのナイフ野郎に遭ったらそれでボコボコにしてやんなよ」
流麗は俺にも分る様に経緯も交えて言った。
ナイフで切られたとは知らなかったけれど、そんな状態でタイマンを張った火受美は大した精神力であると思うが、止めさせるべきだったのではないか?
「なぁ、火受美は今回、来ない方が良いんじゃないか?」
「足は引っ張りませんから、余計な心配しないでください」
「そういう心配じゃなくて、治癒に専念した方が良いだろ?」
「五人しかメンバーが居ないのに抜ける訳にはいきません」
「そりゃそうだろうけど……」
オリジナルメンバーの三人組の中では一番真面目そうだが、意志の強さは流麗以上かもしれない。
「はあっ……麗とのタイマンの時もそうだったけれど、火受美は自分の事よりも、メンバーから外される方が嫌なんだ。だから、諦めた方が良いよ」
神子は溜息を吐きながらそう言った。
「でも無理はさせられないから、武っチとサブティーが仲間になってくれたことは凄く助かるんだ」
流麗は俺の腕を取ると、頬摺りを始めた。
「首師高校との喧嘩で決着が付いたら、武っチに何か御礼しないとね。如何して欲しい? 何でもしてあげるよ♪」
「何でもって……」
「うん! 何でもしてあげるよ!」
何でもって
もしかして
あんな事や
こんな事も
アリって考えて良いっスか?
「チッ!」
流麗が艶然とした表情で俺を見つめている横で、神子は不機嫌そうに舌打ちをしながら俺を睨みつけていた。
えっちなお願いでもするかと思っているのだろうか?
いや、神子達が居なかったら、えっちなお願いしちゃうかも知れないし、神子の不安は杞憂とは言えないと自分でも認めざるを得ない。
「いや、俺は流麗に敗けて従っているんだから、お礼なんて考えなくて良いよ」
「うーん……確かにそうなんだけどさぁ、何か悪いし……じゃあ、お礼の内容はあーしが決めるね」
「別に良いけど……」
どうせ女子高生の考える事だからタピオカティーを奢ってくれるとかそんなモノだろ。
まだタピるとやらが流行しているのかすらよく分からんが、影キャの俺にはその位しか想像出来なかった。
「皆、格闘技の自主練習は実戦を想定したメニューとマススパーを中心にして、練習量は当日に疲れを残さない様に軽めにして、体調管理と怪我には注意して」
実質的にリーダーの役割を担っている火受美は練習について迄注意を促した。
「うん。分かったよ。丁度ボクシング部に音夢パイセンっていうおっきくて強い人いるしぃ、男子の代わりにスパーして貰う予定だったから」
身長170センチ程で、ライト級の音夢先輩は仮想男子としては絶好のスパーリングパートナーと言えた。
どうでも良い事かも知れないが、音夢パイセンと聞くと、響き的に音夢先輩のアレを想像してしまう俺はおかしいのだろうか?
「私もシュートボクシングのジムで男子にスパーリング頼む予定だよ」
「ならば問題ないな。サブティーにも連絡をしておくよ」
そう言って火受美がスマホをポケットから取り出した。
「サブティー? ああ、孝子の事か。あの子は八皇子高校だったよね」
「うん。あーしがグラップリングの道場で知り合って、強い子だからスカウトしたんだ。まぁ、最初はNEO麗のメンバーと言うよりはグラップリングの練習相手のつもりで呼んだんだけどね」
「NEO麗に入ってくれたのは心強いね」
「でしょ? あと武っチもそーだし、神子も火受美もそーだし、あーしは仲間に恵まれているよ」
総合的に見れば麗よりは劣るとはいえ、そこら辺の不良に負けるハズの無い戦力だ。
問題は相手の人数がどの位居るのか分からない事だった。
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