第59話 これって修羅場ってヤツ?
―翌週月曜日―
「えっ? 来週喧嘩って……まだあの子達、
朝、俺の机に座った勝子が呆れた様な声を出していた。
麗衣が停学中の為、今日も登校していないので代わりに勝子にNEO麗の様子を伝えたのだが、やはり勝子も俺と同じ感想を抱いた様だ。
「麗衣ちゃんの言う通り、アンタを流麗ちゃん達の側に置いておくのは正解だったよね……流石にたった三人じゃ、首師高校と揉めるのは危険すぎるしね」
「ああ、それにあと一人、グラップリングの使い手が仲間になったけれどね」
「その子は強いの?」
「サブミッションは強いと思うけど、打撃はそんなに得意じゃなさそうだから、正直タイマンぐらいしか出来ないと思う」
サブミッションでは瞬時に相手を無力化出来無いので、時間を掛けてもいいタイマンならとにかく、集団戦向きではないのは明らかだ。
「まぁ、高校の不良とかだと、珍走よりは喧嘩が弱いだろうけど数が多いだろうから、打撃が強い人の方がありがたいんだけどね。で、集団戦? それともタイマン? どっちでやるか聞いてる?」
「如何やら集団戦らしいけど……流麗はこのメンバーなら二十人はやれるから大丈夫だって言ってたな」
流麗、神子、火受美で十三人は倒せるという人数に俺と孝子を戦力に加えた皮算用に過ぎないが、相手が格闘技を使わず喧嘩も暴走族に劣る只の不良であれば出来なくもないかも知れない。
「ねぇ……私達も助けに行った方が良いんじゃないかな?」
俺達の話を聞いていた恵は心配そうに言った。
「それは麗衣ちゃんが決める事だけど……わざわざ武にプロレスをやらせてまで流麗ちゃんを守らせようとしているのは、麗として動く気は無いって気がするけれどね」
俺が負けた事を勝子はプロレスと表現していた。
まぁ、こちらが打撃では圧倒出来ても、グラップリングも巧な流麗相手では本気でやり合っても負けた可能性はあるけどな。
それはとにかく、勝子の言う通り、恐らく麗として動く気は無いだろう。
そんな会話をしていると、「武っチ! 居るぅ~」という元気のいい声が教室の出入り口から聞こえてきた。
吾妻君と言い、上級生のクラスに来ても全く緊張した様子が見られないのは如何してなんだろう?
「アレ? 流麗如何したの?」
俺が流麗に聞くと、流麗はさり気なく俺の腕に胸を押し付けながら言った。
「今日さぁ、あーしと一緒にご飯食べよ♪」
大声でそんな事を言うものだから、吾妻君の時同様、教室がざわつき出した。
「マジかよ! 何で小碓バッカモテるんだよ!」
「ヤンキーと小動物系、今度はギャルかよ!」
男子の間でそんな事を言う奴が居れば。
「よくみたら小碓クン可愛いかもね」
「うん。母性本能くすぐるっていうか、顔悪くないよね」
という意外な女子の声もある一方。
「えーでも、何かムッツリスケベぽくてキモチワルくない?」
というある意味正当な評価と真っ二つに分かれていた。
そんな周りの声など気にしていないのか?
ぎゅっと腕を抱き、ニヤニヤしながら俺を見つめてきた。
今はとにかく、流麗に自分の教室に帰って貰う様に仕向けるには早めに話を切り上げる必要があった。
「ああ。じゃあ、後で一緒に食べようか」
「わーい! アリガトね♪じゃあ、昼にまた来るからよろぴく♪」
だから、よろぴくって何時の時代のギャルかと思うが、約束を取り付けると、流麗は俺を解放して、教室から出て行った。
今はとにかく、流麗が早く帰ってくれたおかげで助かった。
元々陰キャの俺がこれ以上注目されるたら耐久力が限界を超えてしまう。
だが、次の昼休みに真の試練が待ち構えていた。
◇
―昼休み―
「ハイ♪武っチあーんして♪」
「いいえ! 武先輩! 私の方が美味しいですよ!」
んな事言われても緊張で食欲なんぞ湧かん。
俺は教室で四面楚歌の気分を味わっていた。
昼休みになり、流麗が教室にやってくると、何故か香織までやってきて、しかも二人とも俺のクラスで食べるなどと言い出したのだ。
隣の席のクラスメイトに席を貸してくれるように彼女達が頼み、強引に俺と一緒に食事をする事になったのだ。
というか、何でわざわざ俺のクラスで食う事があるんだ?
「いーじゃん、カオリっチ。武っチはあーしのモノなんだから」
「いいえ! 武先輩はあたしのですから!」
何時から俺が香織のモノになったんだろうか?
これでは目立って仕方無いし、二人の板挟みになって胃腸も悪くなりそうだ。
「何か武がモテてるみたいに見えてキモイしムカつくんだけど。殴って良い?」
何故か勝子がイラつきながら一緒に飯を食っていた。
「もしかして、周佐さん、武君が後輩に獲られそうで焦っているのかな? 結構可愛いところもあるのねー」
恵は勝子に意味不明の煽りを始めた。
「はぁ? アンタ死にたいの?」
「ふふふっ……図星突かれて、本当に焦っているみたいね」
「上等よ! アンタとは一度勝負しないと駄目だと思っていたからね!」
こっちはこっちで雰囲気が最悪になっていた。
コイツが本気で怒ったら俺なんかじゃ止めようが無いが、状況を察した流麗が勝子を抱き寄せて顔をオッパイに挟み、頭を撫で始めた。
「ホラホラ~よしよし♪何怒っているのか知らないけど、きっと麗衣ちゃんが居なくて寂しいんだね。だったらあーしの事、麗衣ちゃんだと思ってイイ子にしてね~」
「ううう~あう~ごめんなさい麗衣ちゃん」
勝子は流麗のフカフカな胸で気持ちよさそうな顔をして頬摺りを始めた。
多分、先日のタイマンで流麗が俺を指定せずに勝子を指名していたら、プロレスをするまでもなく勝子は瞬殺されていただろうだな……。
狂犬から懐いたペットになったかの様な変貌っぷりに恵も香織も引きまくっていた。
◇
先日BreakingDownでやっていた菊野克紀選手の試合が、僭越ながら自分のファイトスタイルにそっくり(3月にやったスパーリングとほぼ同じ様な経緯と結果)だったので親近感を持ちました。流石に40キロ以上体重差とかじゃなかったですけどね。
あの三日月蹴りはダメージ目的より中段に意識を逸らす事と自分の距離で戦う為のストッピング的な意味があったと思います。興味がございましたら是非YoutubeでBreakingDownをご覧下さい。
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