第58話 グラップリングの練習(2) 寝技! 何ともリビドーを喚起する響きでは無いか!
「次は寝技の練習よ」
なにいっ?
寝技の練習だとおおおっ!
何ともリビドーを喚起する響きでは無いか!
何せMMAクラスではむさい男ばかりが相手だったし、女子会じゃ恵は専らパウンドにばかり持ち込んでくるし……アイツ、麗衣とやる時は寝技ばっかり使うんだけどな。吾妻君はやたら腕ひしぎ十字固めを使いたがってくるし、見かけに寄らず自己主張の激しいブツを下着無しで押し付けて来るし……いや、余計な事を考えるのは止めよう。
今は了承のうえでおにゃのこに寝技掛けられるんだもんな……ふふふっ。
「うわっ……武っチパイセン、ただでさえキモイ顔が益々キモク成ってるんすけど……」
神子は心の奥底から軽蔑する眼差しで俺を睨みつけた後、孝子に訴えた。
「あんな解りやすいヘンタイ、流麗と練習させて良いの?」
「うーん……私も正直ドン引きだけど、寝技得意じゃないみたいだし、彼を強くするにはやらせるしかないからね。あ、でも痛いだけで密着が少ない技やるから大丈夫」
「何ソレー! 武っチ可哀そうジャン!」
俺も自分が可哀そうだと思う。
「夜の寝技をしたいなら二人きりの時に思う存分やってくれ」
孝子って何か発言がイチイチセクハラ親父臭いな。
「そんなことしたら武っチパイセン殺すからね」
一体何回目の殺意を神子から向けられたのか、最早数える気もしない。
「って話だから神子にバレない様に上手く乳繰りあってね。じゃあお喋りはこの辺にして、今回やるのはアキレス腱固めだから」
孝子は流麗がレズビアンと自称している事を知らないのだろうか?
だから俺と流麗がくっつく事はあり得ないのだが。
まぁ、その割に流麗は俺に身体を触れさせても平気みたいだが、……誰に対してもこうなのだろうか?
それはとにかく、アキレス腱固めの練習が始まった。
先ずは俺が下で、流麗が上のイノキアリみたいな体勢を取った。
「武っチ、アキレス腱固めは初めてだろうから、あーしが説明しながらやるから覚えてね。先ずは右足を取ったら、足首を左脇に抱えてぇ……、習うより慣れて」
すぐに説明が億劫になったのか?
俺の足の付け根を両膝で挟んで固定し、後方に倒れ込みながら足首関節を極めると、足首が千切れんばかりの痛みが俺の脊髄を駆け巡った。
「イテ! イテ! ギブギブ!」
「ん? 軽くかけたんだけど大袈裟だなぁ」
堪らずマットレスをバンバン叩く俺と目が合うと流麗は足を直ぐに解放した。
「うーん……やっぱり、これ武っチ向きの技じゃないよね」
流麗は真剣な表情で言った。
「まぁ、MMAクラスでもあんまりやった事無いかな」
「いや、そういう意味じゃなくて、差しみたいなオッパイ触れるのが好きなんでしょ?」
バレテラー
まぁ、愛エロ無罪とか言ってたら分るよな。
「じゃあ、上四方固め何か如何かな?」
流麗は、俺のスパッツのウエスト辺りを両手で握り、胸を合わせて、上体を制しながら抑える
流麗は俺の頭の方に両膝をついて位置につくと、俺の上体の上にふせて体を乗せ、両腕を俺の肩先外側より入れて両手でスパッツのウェスト部分を握り腕を制した。
そして、両脚を大きく開き胸で俺の頭、胸を圧して抑える。
確かFカップだと2キロぐらいあるんだっけ?
言わば1キロの鉄アレイを両肩にぶら下げているようなものだとか深夜番組か何かで聞いた事があるが、その鉄アレイの重みが俺の顔を押さえつけた。
ン……気持ち……良くない!
柔らかい感触で嬉しいのも束の間、頬骨が圧迫される激痛で俺は直ぐにタップした。
今後は寝技と聞いてリビドーを喚起するのは難しそうだった。
◇
最後に3種類のスパーリングを行った。
先ずは寝技のスパーリングと、スタンドのスパーリングを行った。
どちらも打撃技を一切使わず、組技の攻防を行う。
状況を限定してスパーリングを行う事で、個々の技術を向上させるのが目的らしい。
2分1ラウンドのスパーリングを流麗、孝子と嫌がる神子とやったが、全員に一本取られた。
スタンドではソコソコやれたかが、寝技では瞬殺だった。
もっぱらMMAのスパーリングではタックルを切る練習に専念していた俺が組技で敵うべくもない。
寝技のスパーリングが終わると、次は打撃有りの総合的なスパーリングだ。
ヘッドギアとインナープロテクターを装着したが、無論打撃は4割程度の力で行うマススパーリングだ。
「武っチ君の実力を見たいから、私の相手をして」
との事で、拳サポーターを嵌めた孝子とスパーリングを始めた。
あまり気乗りがしない中、俺はワンツーを軽く放った。
すると、孝子は空手の外受けでワンツーを払うと、右腕で俺の肘下を引っ掛け、身体を引き込み崩した。
そして、俺に反撃させる間もなくバックに回り、左足を俺の足の間に入れると、俺の身体を後ろに倒しながら左足を深く入れ、身体を横にずらし、俺の左足に自分の足を内側から巻き付かせ、巻き付かせた足で俺を後方に倒すと同時に、孝子の体を俺に正対させると、ヒールホールドを極めた。
「イテテててっ! ギブギブ!」
俺がマットレスをバンバン叩くと、孝子は俺を解放し、溜息を吐いた。
「武っチ君さぁ……組技のセンスが絶望的に無いね」
「そりゃストライカーだから仕方ないだろ」
「てゆーか、流麗さぁ、本当に武っチ君戦力になるの?」
組技の実力だけを見れば、孝子が俺の実力に対して懐疑的になるのは仕方が無い。
「失礼ね。武っチは一見只のムッツリスケベだけど、打撃は凄いんだからね!」
一言余計な台詞も含まれていだが、流麗は俺を庇うように言った。
「でも、打撃以外はからきしじゃないの?」
「打撃強けりゃ充分じゃん。うち等みたいに打撃も組技も何でも出来るって方が珍しいんだから」
「いいえ。サブミッションこそ格闘技における最強の技だから」
ルールや場所、条件により変わってくるのだから、最強格闘技論程不毛な論争は無いと思うのだが、如何やら彼女はサブミッションが最強だと信じて疑わないようだ。
「もおっ。サブティーのサブミッションにかける情熱は知ってるけどさぁ、そんな事言ってたらメンバー集まらないじゃん!」
「だから使える手駒にする為には特訓が必要なんじゃない? 来週は
は?
そんな話初めて聞かされたのだが。
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