第53話 武っチはあーしたちのモノ♪

「よっしゃあーっ! あーしの勝ちいいいいっ!」


 心から嬉しそうにガッツポーズをしながら流麗が叫ぶと、頸部に込めた力を緩めると、再び胸を顔面に押し付けてきたので窒息寸前だ。


 袈裟固めにしてもオッパイ固めのどちらだとしても死ぬ……人生最高の瞬間だった。


 そんな馬鹿な事を考えていると、麗衣が俺から流麗を引き離し、「何時までやってるんだ!」と荒く声を上げた。


「別にいーじゃん。今日から武っチはあーし達『NEO麗』のモノになるんだから♪」


「はあっ……ったく情けねーな……良いぜ。約束通り武はお前等の仲間にしろよ」


 麗衣はそう言いながら、俺の顔を見ると軽く目配せをした。


「本当! あんがとーっ♪ 武っチは絶対に大切にするから安心して。でも、やけにあっさり認めちゃった系?」


 流麗は麗衣が反対するのかと思っていたらしい。


「約束だしな。ただ、一つだけ条件がある」


「不良狩り止めてって条件だったら却下だよ」


「まぁ、止めてくれるのが一番だけどよぉ、あたしが言った位じゃ止めねーだろ?」


「うん。そだね」


「だったらせめて、元・鮮血塗之赤道ブラッディ・レッド・ロードの連中と揉めるのだけは止めてくんねーか? あたしは正直如何でも良いけどよぉ、武と仲が良い先輩も居るからな」


 麗衣がそう提案すると、火受美が口を挟んだ。


「私も彼らとだけは揉めないで欲しい。姫野君が元幹部の赤銅亮磨先輩と仲良かったらしいしね」


 麗衣と火受美の二人に頼まれ、流麗は少し考えた後、麗衣に訊ねた。


「うーん……そうだねぇ。因みにそのブラッド何とかって暴走族、タケル君の犯人とは関係無いの?」


「ああ。あたしもその可能性を考えて、以前、赤銅に探りを入れた事あるけど、民間人相手に事故を起こしたメンバーは過去に居ないとは言っていたな。どこまで本当か分からねーけど、アイツらに限っては信用しても良いんじゃねーか?」


 バカ兄貴二人は到底信用出来そうもないが、その二人は少年院に行った後、地元から引き離された。それ以外の他のメンバー、特に元特攻隊連中と麗の関係は現在良好だし、元親衛隊の連中とは棟田の件もあって一時期抗争があったが、亮磨先輩の仲介もあって現在は少なくても敵対関係では無い。


「分かった。武っチや火受美に肩身の狭い思いをさせたくないし、ブラッド何とかだけは向こうから仕掛けてこない限り、こっちから仕掛ける事はないから」


「そうか、ソイツは赤銅の妹の澪に伝えとくぜ……じゃあ、要件は終わりだな。あたし達は帰るぜ」


 麗衣は今回のタイマンで麗1年のメンバーに来ない様に命令していた為、この場に澪は居なかったから、わざわざ澪に伝えると言ったのだ。


 麗衣達は軽く俺の方に視線を向けると、声もかけずに立国川公園から去って行った。



「何か麗衣ちゃんガン無視ってゆーかぁ、武っチに対して冷たーい。何か感じワルうっ!」


 流麗の思惑通り、俺を手に入れたのにも関わらず、流麗は麗衣に対して少し怒っていた。


「俺が不甲斐ない負け方したから機嫌を損ねたんだろ?」


「でも武っチ頑張ってたジャン! 正直、掌底なんか使わなきゃ最初の連打でKOされてたよ!」


 不良狩りなんて物騒な事をしている割には素直で良い子なのだろうか?

 麗衣とはまた違った魅力で神子や火受美のような仲間が惹かれているのかも知れない。


「まぁ、そうかも知れないけど……、それでも組技は想定外だったな。総合の練習でもしているの?」


「へへへっ……それについては今度一緒に練習しようね」


「練習?」


「うん。あーし達、土曜日にあーしの家に集まって2時間ぐらい格闘技の練習してるんだ。今度、武っチも来てよ」


 麗の女子会と称したスパーリング会と似た様な事を流麗達もやっているのか。


「ああ。分かった」


 俺は頷きながら、タイマン前に麗衣に頭を下げられて頼まれた事を思い出していた。



『あたし達が勝ってもアイツは絶対に不良狩りを止めない。だからお前が側に居て流麗を守ってやってくれ!』




 第1章終了です。次回からNEO麗篇になります。

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