第49話 相思相愛のタイマン

「まさか神子が負ける何てね……流石だよ麗衣ちゃん」


 味方の神子がやられたのにも関わらず、流麗は率直に感嘆していた。


「幾ら相手のスタイルに似せられても、相手の方が身体的に強ければ無意味だって事だ。神子って言うのか、お前?」


 奇しくも流麗が同じ様な事を言っていたが、流麗は神子が麗衣の身体能力を上回っていると思っていたので、結果は逆だった。

 麗衣はまだ茫然としている神子の手を取った。


「あたしよりも力がある男子相手にそのスタイルじゃ勝てねーから、テメーなりのスタイルを早く見つけるんだな。そうすれば、今よりもずっと強くなれるぜ」


「……分かりました」


 神子は麗衣に見られたくないのか?

 顔を背けて立ち上がると、流麗達の元へ向かった。


「やったあ~流石麗衣さん!」


 恵は勝利した麗衣に喜んで声を掛けた。


「まぁ、恵が総合のスパーリングで付き合ってくれたからな」


「いいえ。麗衣さんが元々総合相手でも強いからね」


 麗衣が総合の使い手相手にも負けないのは、足腰が強く容易くテイクダウンを取られないことに他ならない。


 近年、日本のキックボクサーがMMAルールで勝てない理由は首相撲に制限があるルールに慣れきってしまい、簡単にテイクダウンを取られてしまう事が大きいだろう。


 日本のキックボクサーに比べ、ムエタイの選手がMMAルールでも活躍しているのはジムワークで一時間は首相撲を練習するという彼らの足腰の強さでテイクダウンを取られづらいのが大きな要因であろう。


 麗衣はアマチュアキックボクサーであるにも関わらず、ムエタイばりに首相撲の練習もしているからMMAの経験者相手だとしても、選手相手でも無ければテイクダウンを取られる事は無い。


 俺と麗衣がキックボクシングルールでは互角のスパーリングをしても、MMAルールでは俺は恵に勝てず、麗衣が恵に勝てるのはこういう理由があるのだろう。


「でも感謝しているぜ。アイツも正直結構強かったからな。恵とスパーしてなきゃ、組技でやられていた可能性もあるしな」


 そうは思わせない程実力差がある様に見えた。

 神子が強かったのは間違いないが、神子にとって相手が悪かったと言うべきだろう。


「私のお陰じゃなくて、片足タックルの抜き方、レイチェルさんに教わったMMA対策の技だったよね。早速役に立って良かったよね」


「あっ……ああ。確かにそうだけどよぉ……」


 レイチェルさんに教わった技だったのか。

 麗衣は何処と無く気恥ずかしそうな表情をしていた。


「……じゃあ、次は私が行こう」


 こちらが勝利を喜ぶのも束の間、流麗サイドは姫野先輩の妹の火受美が前に進み出た。


「火受美……本当に大丈夫なの?」


 流麗は不安そうな顔で火受美の顔を見た。


「ええ。どの道、二連勝は無くなったから私が行かないと駄目になったし」


「ゴメン火受美。私が負けたせいで……」


 神子は殊勝な態度を取ると、彼女の頭に軽く手を乗せた。


「気にしないで、


 火受美が優しく声を掛けるその姿は姫野先輩を思わせた。


 『NEO麗』の中では姉御的存在なのだろうか?


 容姿だけでなく性格まで姫野先輩に似ているようだ。


 しかし、流麗達の不安そうな表情を見ると彼女があまり強くないのかも知れない。


「念のために確認しますけど、次の相手も私達が選んでいいんですよね?」


 火受美が麗衣に訊ねると、麗衣は頷きながら答えた。


「そう言う約束だからな。何ならあたしが相手してやっても構わねーぜ?」


「やりたいのはヤマヤマですが、消耗した貴女に勝っても面白くない」


「へぇ……言ってくれるじゃねーか。言っとくが、あたし以外の三人ともあたしと互角かそれ以上に強いぜ。後悔しても知らねーぞ?」


「麗のメンバーの強さは姉から伺っています。だから楽しみにしていましたよ」


「流石あの姫野の妹だぜ……気の強さは姉ちゃんに負けてねぇな。で、誰を選ぶんだ?」


「最初から相手は決めています」


 火受美はスッと恵に向かって指をさした。


「十戸武恵先輩……総合の使い手の貴女とやりたいです。是非ともお手合わせ願えますでしょうか?」


 単純に考えれば火受美が使う日本拳法と相性的には有利そうなボクサーの勝子やキックボクサーの俺を選ばず、わざわざ総合の使い手である恵を指定した。


「うん! 良いよ! 私も姫野先輩の妹の貴女とやってみたかったからね!」


 そう言えば恵も対戦を望んでいたな。

 こうして相思相愛のタイマンが決まった。

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