第48話 美夜受麗衣VS草薙神子(2) 打たせ稽古
鏡でフォームを確認するかの様に自分そっくりなキックに麗衣も驚いているようだ。
麗衣は引き続き、2発、3発と腕を蹴られ、神子がミドルを打つモーションで踏み込んで来ると、麗衣はスウェーバックをして上半身を後ろに逸らした。
「何!」
だが、残った下半身に神子はミドルを打つモーションからローキックをヒットさせた。
「打ち方だけじゃなくて、フェイント迄そっくりなの?」
恵も驚愕していた。
目の前の光景はまるで麗衣と麗衣が戦っているかの様だった。
麗衣もローキックを蹴り返すと、神子も負けじとローキックを蹴り返す。
そのフォーム、タイミング全てがそっくりだった。
「この前、あの子が喧嘩していた時と全然スタイルが違うじゃないか!」
俺が声を荒げてそんな事を言うと、後ろから「むにゅっ」と柔らかく弾力性のある二つの物体を押し付けられると、背後から抱きしめられた。
「えっ! 流麗さん?」
「もーっ! 武っチってば、あーしのことをいい加減に『さん』付けで呼ばないでよぉ」
「あっ……ああ。分かった流麗」
「ふふふっ……オッパイぐらいで動揺する武っチかあいいなぁ♪」
なぬ?
リア充は不意にオッパイを押し付けられたぐらいだと興奮しないものなのか?
「そっ……そんな事より、神子って子、前とは別人みたいだけど?」
「えっとねぇ、それは神子のトレース能力だよ?」
なんじゃ、そのゲームみたいな能力は?
俺の顔が余程、
流麗は口を膨らませて怒ったように言った。
「武っチ信じてないでしょ? 神子は試合なんかでも対戦相手の動画を徹底的に調べて、癖とか決定的に研究するんだ。で、麗衣ちゃんについてはニヤニヤ動画で喧嘩動画やアマチュアキックボクシング、それにグローブ空手の試合動画が結構上がっているから、研究しやすかったんだ」
ニヤニヤ動画の喧嘩動画については何者かが麗を偽り勝手に上げている物だが、数々の大会で優勝している麗衣の試合動画は簡単に見る事が可能だ。
「喧嘩でそこまでするのは大袈裟な気もするけど、研究することは分からないでもない。でも、何で真似までするんだ?」
「神子は対決する相手によってスタイルを自在にコピー出来るの。だから、同じタイプだと噛み合うし、身体能力が高いから、コピーした相手の能力を上回るし、打撃も強いから有利に立てるの。まぁ、見てれば分るよ?」
神子と麗衣は中間距離からローキックを打ち合っていたが、神子が押していた。
「バカな! 麗衣が押されている?」
「つまり、同じ技を使っていても、単純に威力が強い方が勝つって事」
鞭のようにしなり、早く重いローキックは麗衣の専売特許かと思っていたが、神子の威力はさらに上回る様に見えた。
「どーせ麗衣ちゃんって単純そうだから、神子の強さがMMAの技術かと見誤っていたのだろうけど、神子の真に恐ろしいのはこのコピー能力だよ」
そう言えば、総合格闘家の朝倉海が相手の動きまでコピーして戦うタイプで身体能力が高いから強いって聞いた事あるな。
有名選手の真似をしてスタイルに取り入れるってよくある事だけど、神子の年齢で自由自在に相手の技を真似る何て至難の業に思えるが。
「キャハハハッ! 一寸麗衣ちゃん! 本気出してるぅ~? このまんまじゃ武っチ貰っちゃうよぉ~」
流麗は後ろから俺に抱き着く力を強めながら麗衣を挑発した。
神子と距離を十分に取ってから麗衣は俺の方にチラリと目を向けると、対決している神子から完全に目を逸らし、俺を指さした。
「武テメーっ! 裏切りやがったかあっ!」
「裏切ってねーよ!」
「じゃあ、何でテメーに流麗が抱き着いているんだよおっ!」
確かにこの状況じゃ弁明の余地も無い。
喧嘩中であるにも関わらず、麗衣がこちらにズカズカと近付いてきた。
「まっ……待て誤解だ!」
まるで浮気の現場を押さえられた亭主のような心情だが、それどころじゃないだろ?
「待って下さい! まだタイマンが終わって無いですよっ!」
タイマン中に無視された形になった神子が左ハイキックを放つと、麗衣は振り向きもせず、蹴り足の内側に片腕を強く当て、蹴りを跳ね上げた。
「「「なっ!」」」
今度は『NEO麗』のメンバー全員が驚愕の声を上げた。
自分等が有利かと思っていたのだろうから、麗衣が軽く神子の攻撃を捌いた事に驚愕したのだろう。
「テメーに合わせて打たせ稽古してやったら調子に乗りやがって。テメーの軽い蹴りなんざ一発も効いてねーんだよ!」
そう言いながら、麗衣は身体を回転させ、後ろを振り向きながら真後ろに踵を突き出し、後ろ蹴りで神子の腹を蹴り飛ばすと、堪らず神子は地面に尻餅を着いた。
「ぐっ……ほっ……本気じゃなかったんですか!」
神子は蒼褪めていた。
「言っただろ? 打たせ稽古してやったって。それにテメーの攻撃何か何発喰らっても
確かにレイチェルさんとのスパーリングに比べれば、如何に神子が優れた選手だとしても子供みたいなものだろうな。
「なっ……舐めんな!」
再び神子は麗衣そっくりなミドルキックを放つが、麗衣は前足の右膝と前手の右腕を肘につけるヨック・バンというムエタイの防御で神子のミドルキックをカットすると、神子の蹴り足が地面に着くよりも早く、ブロックした右足を着地させると同時に放たれた矢のような左ミドルキックを神子のレバーに打ち込んだ。
「うぐっ!」
フルコンタクト空手の経験もあり、ボディへの攻撃に慣れているはずの神子だが、麗衣のミドルキックの威力は想像を遥かに超えていたのだろうか?
ダウンこそしていないが、庇うように脇腹を押さえていた。
「付け焼刃で形ばっか真似できてもあたしのキックの威力迄真似できっかよ。物真似なんてチンケなマネしてねーで、お得意の総合で来いよ! それとも、これ以上やっても弱い者苛めにしかなんねーから止めるか?」
「まだまだ!」
実力差を見せつけられても心が折れていないのか?
神子はキャッチされない様に素早いローキックを麗衣の足に叩き込むと、ローキックを打った足をストンと下に落とすと共に上体を落とし、片足タックルで麗衣の前足をキャッチした。
通常、キックした足は元の体勢に引き戻すものだが、キックした足を引き戻すのはモーションになるので隙に成り易い。だが、蹴り足を引き戻さずに相手の足元に落とす事で素早い攻撃への連携が可能であり、距離が接近する事でタックルにもつなぎやすいのだ。
「あらよっと!」
だが、麗衣はタックルの対処方法を練習していたのか?
突っ込んできた神子の頭を下に押さえつけると、後方に向きを変え、足を引っこ抜くと、素早くバックステップして距離を取った。
「まだだっ!」
今度は総合風の軸足をあまり返さないコンパクトなミドルキックを放ち、麗衣の脇腹にヒットさせた。
威力的にはムエタイのミドルに遠く及ばないが、これはコンビネーションの一環に過ぎず、効かなくても構わないようだった。
先程の様に蹴った足を相手の足元に密着させると、今度は胴タックルで麗衣の懐に組み付こうとした。
すると麗衣は素早く後ろ足を引き、足幅を前後に大きく開くと、神子の首に腕を回し、タックルに負けない様に足を踏ん張り、突進の勢いを止めると首相撲の体勢になった。
「うらあっ!」
麗衣は声を上げながら首相撲の体勢から左膝蹴りをボディに突き刺し、蹴り足を着地させると同時に両足をスイッチさせ右足の膝蹴りを素早く叩き込んだ。
「おらよっ!」
神子のボディを痛めつけた麗衣は神子の右足に自分の右足を引っかけると、小外刈りの体勢に入り、引っかけた足を手前に引いて神子を地面に倒した。
「せいっ!」
裂帛の気合を込め、倒れた神子の顔面目掛けて麗衣が足で踏みつぶす―
顔を踏みつぶされ流血した神子の顔を想像したが―
「あたしの勝ちで良いな?」
ドヤ顔を浮かべた麗衣の蹴りは神子の耳の数センチ先に踏み下ろされていた。
「……そうね。麗衣ちゃんの勝ちで良いよ」
麗衣の足元で茫然としている神子に代わり、真顔の流麗が答えた。
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