第47話 美夜受麗衣VS草薙神子(1) トレース

 『麗』と『NEO麗』が雌雄を決定する日の19時。


 それぞれのメンバーは閑静な住宅街にある立国川公園に集まっていた。


 日中は子連れの主婦の憩いの場であり、少年野球チームのグランドが隣接し、それら少年らの声で賑やいでるが、夜になると人通りが少ない事もある為、静寂に包まれる。

 以前は暴走族の鮮血塗之赤道ブラッディ・レッド・ロードが溜まり場にしていたが、彼らが解散して以降は事実上、俺達『麗』の溜まり場になっていた。


 溜まり場と言っても鮮血塗之赤道ブラッディ・レッド・ロードの様に騒いだりせず、別の地域の暴走族を潰しに行く前に集合する程度であるが、今回の様に喧嘩でこの公園を使用する場合もあるのだ。


「テメーラ良く逃げずに来たな」


 麗衣は悪役の様な台詞を流麗達に言った。


「まぁ、あーし達から提案した事だからね。麗衣ちゃん達の方こそ、逃げないでありがとね♪」


「ハッ! 強がっていられるのも今の内だぜ? じゃあ、とっととタイマン始めっぞ」


「ルールは3対3のタイマンで、そっちは二年生、武器は無し。拳サポ、オープンフィンガーグローブはOKだっけ?」


「ああ。その通りだ」


「あと悪いけどMMAの練習で使うようなニーガードも使用して良い? ポリエステル製の柔らかいヤツだから膝蹴りの威力が増すって事は無いよ」


 寧ろ膝蹴りの威力が落ちそうだし、ローキックを膝でカットする際にこちらに与えるダメージも減りそうなものだから、彼女達のが不利になる様な気がするが何を狙っているのだろうか?


「別にお前等がヘッドギア使っていても構わねーと思っていたぐらいだし、好きにしな」


「さっすが麗衣ちゃん! 強者の余裕ってカンジぃ~」


「ふざけてないでさっさと準備しろ! で、テメーラ、相手は誰を指名するんだ?」


 先日の約束では流麗達が麗のメンバーの誰と戦うか指名出来る約束だった。


「んっとね、いきなりだけど麗衣ちゃんカモーン♪」


「上等じゃねーか! テメーラは当然、流麗が出てくるんだよな?」


「あーしも本当はそうしたいんだけどぉ~麗衣ちゃん以上に興味ある子がいるから、今回はパス。代わりに神子が相手するよ」


 流麗の言葉を受け、スッと草薙神子が前に進み出た。


「成程、テメーか……。相手にとって不足ねーな」


 シュートボクシングの使い手であり、MMAも使う神子はキックボクサーである麗衣にとって、普通に考えたら相性的にあまり良くない相手と言える。


 流麗側が相性を考慮して、誰が出るのか決められるのは結構こちらにとって大きなハンデと言える。


「お手柔らかに頼みますね。先輩」


「胸貸してやるよ……かかって来な!」


 神子を受けて立つ麗衣は両拳を目の高さに上げ、右手を少し前にやり、右足を前に、爪先を神子の正面に向けると、右手、右足ともほぼ45度に曲げ、前足の踵を少し浮かし、後ろ足に体重をかけ、上半身を直立させたアップライトスタイルに構えた。


 これは典型的なムエタイの構えであり、ムエタイ選手に多いサウスポースタイルに構えていた。


 通常、麗衣はタイマンではオーソドックススタイルで様子を見てから得意のサウスポースタイルにチェンジして止めを刺すのだが、今回は強敵とみていきなり本気を出す様だ。


 だが、神子がサウスポースタイルで取った構えを見て、麗衣は激怒した。


「テメー! あたしをおちょくっているのか!」


 何と、神子は先日見せたMMAの構えでは無く、麗衣と映し鏡の様にそっくりなムエタイの構えをとっていたのだ。


「おちょくっていませんよ? そもそも、シュートボクシングって投げ技や立ち関節技を使いますけど、MMAよりムエタイに近い構えですし、それに、麗衣先輩相手ならテイクダウン取られる心配もありませんしね」


 MMA風の前後の足幅を広く取った構えは簡単に両足タックルを取られない為のものだが、キックを打ちづらい欠点がある。

 先日、朝来名益城とタイマンを張った時は相手がMMAの使い手だからタックルを警戒したMMAの戦い方をしていた様だが、麗衣がキックボクサーならその必要はないという判断は一見理にかなっている。


 そして、それは麗衣に打撃で勝つ自信があるという事か?


「ハッ! 後悔すんなよ!」


 麗衣が距離を詰めようとすると、神子はスキップするように左足で地面を蹴ると、その反動でそのまま前足も強く踏んで蹴り足にパワーを乗せ、大きく左手を振り上げ弓のようなカラダのしなりを作り、まるで矢が放たれるような超高速の左ミドルキックを麗衣の右手首辺りに叩き込んだ。


「「「なっ!」」」


 その蹴りを見て、俺と勝子、そして恵は驚愕の声を上げた。


 それはサムゴーを模範とした麗衣のキックにそっくりだったからだ。

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