第44話 MMA向けのフックを教わった
「背が大きい相手と対峙する時に有効な攻撃はローキックとショートパンチだ。君は
確かに俺は喧嘩でも試合でも顔面への左フックで相手をKOした経験が無かった。
俺が好きな小林聡選手や魔裟斗選手は左フックが得意だったから左フックを強く打てるようになりたいとは思っているが、中々そうは行かないのが現状だ。
「君のフックはボクサー相手の間合いなら、問題が無いと思う。だが、MMAの選手が相手ならば如何なると思う?」
さっきから、キックボクサーの俺にわざわざMMAの選手との戦いを仮定させるのはどんな相手でも対応できるように喧嘩対策であるという事だろうか?
「MMAの間合いだと距離が遠いから、見られやすいでしょうね」
ボクシングのように間合いが近ければ、外から巻き込むようにして打つ事により視界から消えて見づらいが、MMAの間合いでは外から打つ事によって逆に見やすいパンチになりそうだ。
「そうだね。相手から見やすいから、タックルも合わされやすい。だからストレートと上手く使い分けたり、上下、横の動きを使って安全な位置から打つのが重要なんだ」
ブラッドさんは具体的なフォームを取りながら説明を開始した。
「構えたところから足腰は回し過ぎず、コンパクトに拳を倒しながら最短の距離で打ち込んで素早く戻せるように打つ。近い距離であればコンパクトに縦拳で打ち、遠い間合いでスウィングフックを打つのであれば、頭を振り、勢いを付けながら、拳を横もしくはスクリューしながら相手のガードを避けるようなイメージで打ち込むのが基本だ」
ボクシングの様に腰を回し過ぎないで打つのがMMAのパンチの基本だ。
「知っての通り、いきなりフックを打ってもカウンターを喰らいやすいから、ストレートを打つと相手がガードを閉じるので、その後にフックを打つとガードが閉じているので側面から当てやすい」
まぁ、基本中の基本だよな。
「近付いた時に一回、
「でも、カウンターを喰らう可能性が高そうじゃないですか?」
「そうだな。フックを打ちながら上体を上げると危険だが、
確かにその通りだ。
「正面からフックを使ったコンビネーションを使うとタックルを喰らう可能性がある。だが、サイドにずれると相手のタックルをディフェンス出来るし見えない位置から効果的に自分の打撃を当てられる」
ここまで説明すると、ブラッドさんは実際にサイドステップしながらフックを打って見せた。
「実戦ではサイドにずれてからフックを打つのではなく、サイドステップしながらフックを打つと、相手の攻撃をディフェンス出来るし、自分だけが相手に当てて、タックルをディフェンス出来る」
俺もブラッドさんに習って教わった通りフックを打ってみる。
「確かに。これなら相手の攻撃から真っすぐ下がらないでカウンターも出来ますね。ですが、ボクシングやキックのフックに比べると、どうしても威力が落ちそうじゃないですか?」
離れた距離から勢いをつけて振るMMAの典型的なスウィングフックはとにかく、教わった方法でショートフックはコンパクトに打つと、相手にパンチは当てやすそうだし隙も少ないが、足を内側に捻り腰を回転させるボクシングのフックなどより威力が劣るのではないか。
「そうだな。接近戦で相手を仕留めるにはパワー不足かも知れない。多少リスクを取っても良いのなら、簡単に強力なフックを打つ方法もある」
そう言うとブラッドさんはパンチミットを拾って俺に渡した。
「このジムでは会員同士がキックミットを受けるらしいが、武はパンチミットも受けられるかい?」
最近はキックミットだけじゃなく、ボクシング部でパンチミットも受けている。
特に音夢先輩の重いパンチも受けて居るから問題は無いはずだ。
「ハイ。大丈夫です」
「ならば論よりも証拠。ミットでパンチを受けて実感してくれ」
「あっ。ハイ」
俺はパンチミットを受け取ると、俺に向かってブラッドさんが構えた。
「先ずはキックボクシング風の
ブラッドさんは上体を左に回転させて捻り、タメを作ると、右足を軸にして、身体全体で作った捻りを解放する様に左フックを放つと、コンパスの様に右足を軸に、左半身や左足のつま先が内側に回転させながら腕を巻き込むようにして、左フックを俺が持つミットに叩き込んだ。
重い!
当たり前だが音夢先輩や勝子のパンチよりも遥かに重いパンチだった。
こんなパンチをまともに受けたら失神じゃすまなかっただろうな。
情けない事だが、改めてブラッドさんが本気でスパーをやらないでくれてほっとした。
「如何だい。結構強く打っているけど、受けられそうかい?」
「ハイ、大丈夫です」
「OK。では、次は本番と行こうか。Are You Ready?」
アレよりも強いパンチを受けろと言うのか?
だが、恐怖よりも興味が優先した。
「ハイ! お願いします」
「良い返事だ。でも、良いかい? 今からやるパンチは多用するんじゃないぞ」
そう言うと、ブラッドさんが再びフックを放った。
「え?」
今まで聞いた事が無いようなパンヤの音が鳴り響くと、俺の腕は持って行かれ、体勢が大きく崩れると肩が外れたかと思う程の激痛に苛まれた。
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