第33話 レイチェル・"ブロンディ"・スチュアートVS山元優美(1) MMA試合観戦 

 近年、女子格闘技ジョシカクのレベルの向上が凄まじい。


 何年か前まではホンの数名の選手を除き、とても観れたレベルでは無かったが、最近はJKファイターという肩書の女子ですら単なる客寄せパンダでは無く、金を取れる実力が伴っているので驚かされる。


 パワーや迫力こそ男子に劣るとはいえ、トップ選手のテクニック面では男子に引けを取らないと思わせる程強い選手も存在する事は認めるべきだろう。


 そんな女子格闘技界のスーパースターが日本に来日し、今日試合が行われる事になった。


 日本有数の格闘技イベントRAIZANにおいて、女子格闘家としては初めてメインイベントを女子格闘技界きっての大物達に委ねられた。


 俺はスマホを耳に当てながら、テレビ画面に映し出される二人の華やかな女子格闘家の姿に見入っていた。


「青コーナー。168センチ61.1キロ。元レスリング世界王者。RAIZANスーパーフライ級1位。山元優美やまもとゆうみ――――っ!」


 ドレッドヘアに褐色に焼けた肌の女性は紹介が終わると見る者を魅了させて止まない笑顔を浮かべた。


 かつて女子レスリングでは絶対的な強さを誇り、総合格闘家に転向後、RAIZANスーパーフライ級1位まで上り詰め、今回はバンタム級に階級を上げて臨む試合だった。


 格闘家一家として有名なだけでなく、その日本人離れした容姿と美貌でも人気を集め、ママさんファイターとしても知られ、女子からも人気を集めていた。


「赤コーナー。170センチ61.2キロ。グレイテスト・ファイティング・チャンピオンシップ、バンタム級王者、レイチェル・"ブロンディ"・スチュアートぉ――――っ!」


 黒のセパレートとアンクルサポーターから剥き出しのお腹と太腿は山元選手とは正反対に白く、束ねられた金髪を揺らしながら観客席に向かって一礼した。


 レイチェルはグレイテスト・ファイティング・チャンピオンシップというアメリカの有名格闘団体に所属する総合格闘技の美人女性選手で、と噂されるほど強い事で知られていた。


 彼女もまた美人ママさんファイターとして知られ、山元選手との試合前に「史上最強の母親決定戦」というキャッチフレーズで宣伝されていた。


「ゆうみいいいいいっ! 頑張れやあっ!」


 スマホ越しに同じ番組を観戦している麗衣の喧しい声援が響いた。


 麗衣は山元優美のファンらしく、総合には疎いらしいが彼女の試合だけは観ているそうだ。


「ラウンドワン! ファイト!」


 ゴングが鳴り響き、レイチェルが飛び出すとサウスポースタイルに構えた山元選手は右回りにサークリングを描き、距離を取った。


 最近、山元選手は元プロボクシング世界王者の下でボクシングのトレーニングを取り入れているらしく、打撃のスキル向上が著しいという話を聞いた事がある。


 とは言え、相手は総合格闘技界の頂点ともいえるGFC王者。


 MMA選手であり、キックボクサーの肩書を持つレイチェルの打撃に敵うとは思えない。


 そんな事は山元選手自身が一番承知しているのだろう。


 自分からは不用意に打撃の距離に入らず、引きながら相手が自分の間合いに入って来たところでカウンターを決めるつもりだろう。


 レイチェルの方も恐らく誘いは承知の上、距離を詰めると、山元選手は軽く牽制気味の前手の右ジャブを放ち、手を引き終えた瞬間、大きく右のロングフックを振るうと、レイチェルが思った以上にパンチが伸びたのか?

 スウェーがワンテンポ遅れ、軽く掠めたパンチがレイチェルの頬を揺らした。


 ボクシングを学んでいる割にはフックが大振りで荒いように見えるが、そもそも総合格闘技ではボクシングとは距離が違うので、コンパクトに当てようとしても中々そうは行かない為、相手にプレッシャーをかけながら大きく振るのが基本だ。


「うおおおおっ! 良いぞ! ゆうみいいいいいっ!」


 電話越しで麗衣が喧しく声を上げた。


 更に山元選手はスッと体勢を落とし、得意のタックルを仕掛けようと腰を落とすと、警戒したレイチェルの動きが一瞬硬直する。


 だが、これはフェイントで滑り込むようにしてステップインすると長い腕で右のボディストレートをレイチェルの剥き出しの臍あたりに打ち込んだ。


 レスリング元世界王者の肩書はそれだけで対戦相手にタックルを警戒させるが、それを逆手に取り、タックルのフェイントからボディストレートを打つのは山元選手の得意技だった。


「良いぞおおおおおおっ! そのままガイジンぶちのめせええええっ!」


 TV越しのアナウンサーの声が麗衣の応援で搔き消されていた。


 レイチェルもやられてばかりではなく、鋭いローキックを放つ。

 だが、正面から放たれたキックなのでパンチを合わせるのは難しくも無いのか、山元選手がローキックに右のロングフックを合わせると、先ずはレイチェルの蹴りが、少し遅れて山元選手のパンチが互いに命中した。


 意外な事に打撃の攻防で有利に立っている山元選手の方が致命的でないにせよ、与えているダメージは大きそうだ。


 若干グラつき、レイチェルがバランスを崩した隙に山元選手は体勢を低くし、懐に飛び込む片足タックルでレイチェルの前足を取った。


「よっしゃあ! そのまま転がしちまえ!」


 麗衣に言われるまでも無く、山元選手はレイチェルの太腿を両腕で抱えると、一旦両足を引き、レイチェルの左足を伸ばし、レイチェルの左足から自由を奪うと、山元選手は一旦レイチェルの足を自分の右側にだす。


 右腕で左太腿、左腕で左膝下辺りを抱え、自分の胸部にホールドすると、軸足一本で立つレイチェルを押し込み、軸足を左足で刈ると、レイチェルはマットに背を打ち付けた。


「しゃああああっ! コンクリなら大ダメージだぜ!」


 いや喧嘩じゃないから。


 そう突っ込むのも馬鹿らしいので俺は何も言わず、戦況を傍観していた。


 レイチェルの両脇を膝で差し、マウントポジションを奪った山元選手は体重を移動させながら腕を取りに行った。


 この体勢になると腕を取られやすいのだが、レイチェルは左肘を内側に捻る様にして反転し、腕を取ろうとする山元選手の動きに合わせてレイチェルも回転すると上下が入れ替わり、体重をかけて山元選手を潰し、腕を抜くと今度はレイチェルがマウントを取った。


「だああああっ! 金髪パツキン! テメーは大人しく下で寝てろよおっ!」


 いや……お前も金髪だろ?


 しかもレイチェルは地毛だろうけど、お前はわざわざ染めてる訳だし。


 何て事実を麗衣に率直に告げる程俺は世渡り下手では無かった。


 今度はレイチェルが肘を返しながらパウンドのパンチを振り下ろすが、山元選手が下から跳ね上がる様にして蹴りで反撃するのを嫌い、レイチェル選手はスッと立ち上がると、所謂イノキ・アリ状態になった。


 レイチェルは山元選手に付き合わず、離れると掌で掬い上げるような手つきで立つ様に促した。


「ハッ! スタンドなら優美に勝てるってか? さっきからやられっぱなしじゃねーか!」


「今までのは多分様子見だったんじゃ……」


「下僕は黙ってろやあっ! 皮つきのソチン切り取って多磨川に浮かべるぞおっ!」


 言葉のハイキックが俺の鼓膜をぶち破り、頭蓋骨を木っ端みじんに破壊せんばかりの威力で打ち抜いた。


「……ごめんなさい」


 俺は何時もの様に悪くもないのに謝っていた。


 理不尽な目に遭う事は慣れている。


 寧ろ心地よい位だからどうせなら虫けらを踏みにじるつもりでもっと罵って欲しい。


 二人の選手が必死に戦っている中、俺はそんな不謹慎な事を考えていた。




 今回から登場するMMAファイターのレイチェルと後に登場するブラッドはビジョンさんの作品に登場するキャラクターをお借りしました。


 快く了承してくださいましたビジョンさんに御礼申し上げますm(_ _)m


 『フェイタルコンバット ~美女肉弾』も是非ご覧ください!


https://kakuyomu.jp/works/1177354054889273957

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