第7話 マジウケルじょーだんジャナインスケド
「いや、それは無いでしょ? だって俺、麗のメンバーだし、君に逢ったのは今日が初めてだし」
俺の発言を受けると、一瞬流麗はキョトンとした表情を浮かべたけれど、数秒後には腹を抱えて笑い出した。
「きゃはははっ! マジウケルじょーだんナンスケド!」
マジウケルじょーだんジャナインスケド、流麗は俺の話を信じていなかった。
「麗って女子しかメンバー居ないって知らないの? いや……君もしかして女の子……じゃないよね? かぁいいけどさぁ……流石に女の子には見えないからねぇ……」
「その情報かなり古いんだけど?」
オリジナルメンバーは美夜受麗衣、織戸橘姫野、周佐勝子の三人で確かに女子しか居ないチームであったが、四人目のメンバーに男である俺が加わったし、今では生物学的には男である吾妻君も麗のメンバーになっている。
でも、俺の言う事を流麗は一切信じずに俺の肩をバンバンと叩きながら言った。
「良いって良いって! 背伸びしたいお年頃だしね!」
「こちとら背伸びしても大して身長高くならんわ!」
「何ソレ? もしかしてギャグのつもり? サム~」
ギャルにギャグなどお寒いダジャレで慣れない関西系のノリに対する反応は氷点下を切るものだった。
「……でも、麗の事知っていてくれて嬉しいねぇ……そうそう。君にお詫びと今日助けてくれたお礼にこれをあげるヨ♪」
流麗はそう言って先程男達をぶちのめしたばかりの白い合成樹脂の拳サポーターを俺に差し出した。
「これは?」
「フルコンタクト空手の試合で使われる拳サポだよ。麗のメンバーは喧嘩の時にこれを使う事にしているんだ」
麗にはそんな決まりは無いし、同じタイプの拳サポはフルコンタクト空手の使い手である大伴静江しか使っていない。
まだ流麗は自分が麗のメンバーだと言い張っているが、その表情はとても嘘を吐いている様には見えない。
この違和感は何だろう?
流麗は自分が本当に麗のメンバーであると信じ込んでいるから話が噛み合わないのだろうか?
「だから、君にも麗のメンバーと同じこの拳サポをあげるヨ♪簡易バンテージなんか喧嘩で使うあたり、君も結構訳ありだろうし、簡易バンテージだけだと拳痛めやすいでしょ? それに君、小さいからあーしと同じサイズで良さそうだし」
俺が使っているのは以前勝子から貰った大切な簡易バンテージだが、度重なる喧嘩でヘタってきており、確かにそろそろ新しい物の購入を考えていた頃だ。
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて貰っておくよ」
俺は拳サポーターを受け取り、さっそく手に嵌めてみると、驚くほどしっくりと来た。
「へぇ……マジックテープが無いから直ぐに嵌められるね」
「でしょ? リストが伸縮自在だからマジックテープを巻かないで直ぐに手に嵌められるから、喧嘩の時とか便利だよね♪」
確かにそうかも知れないけれど、とても女子の言う台詞じゃなく、相当喧嘩慣れしているようだ。
麗を自称するだけあって、その実力も相当なものである事は確かだ。
だが、何故流麗が麗を自称するのか謎が残っている。
「ねぇ、君は如何して……」
俺が尚も偽る流麗に訊ねようとすると、再びパトカーのサイレンが近くに鳴り響いた。
「全く……今日に限って何時もよりしつこいわね!」
「通行人にでも相田との喧嘩を見られて通報されたのかもね」
「残念だけれど、ここでお別れね」
流麗は既に駆け出していた。
俺も相田をぶちのめした事で当事者になったので、一刻も早くこの場から離れざるを得ない。
「ああ。拳サポありがとう!」
「如何いたしまして! 何時かまた逢えると良いよね!」
一度だけ流麗は振り返って手を振ると、まるで陸上選手の様なスピードで走り去っていった。
余程逃げ慣れているのかな?
と、その走りっぷりを見て感心している俺も一般人の感覚から大分ずれたモノになっているんだろうな。
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