第6話 ペット扱いはお腹一杯です

「『アマチュアからやり直せ!』 ……きゃーっ! 台詞カッコいい! ツヨカワだけじゃなくてシブカワってカンジぃ? お姉さん痺れたよぉ~」


 喧嘩の場所から離れて、流麗と一緒に歩いていると俺の下手な物真似をしてから称賛してくれた。


 というか、シブカワって栗の内側にある皮の事か?


 この豊満ギャルが何を言っているのか意味不明だが、不意に俺に抱き着くと頬に立て続けに口付けをしてきた。


 ちゅっ♪ ちゅっ♪


「なっ! 何をするんですか?」


 麗衣や勝子から口にキスをされた事ならあるけれど、頬にキスされたのは初めてだったので少し驚いた。


 ……いや、確か吾妻君にされた事があったけれど、アレはノーカンだよね?


「ふふふっ……如何にも童貞っぽい反応が、かぁーいーなぁ~、ねぇねぇ君、あーしのペットにならない?」


 奇しくも麗衣みたいなことをほざき出した。


「いや……もうペット扱いはお腹一杯なので勘弁してください」


「ふーん……それってもしかして、もう誰かのペットって事なの?」


「いや……そんな訳じゃ」


 つい迂闊な発言をしてしまったが、認めると面倒な事になりそうだ。


「じゃあ、恋人なら良いって事? ゴメンねぇ~あーし、レズだしぃ~心に決めたお姉さんが居るのよぉ」


 一人で話を飛躍させて盛り上がった挙句、初対面の男に聞いてもいないのに勝手にカミングアウトをしてきた。


 別に恋人にしてくれなどと言ってないが、好奇心を抱かざるを得ない発言が含まれていたので聞いてみた。


「心に決めたお姉さんって?」


「ん? 聞きたいの坊や?」


 余程話したいみたいなので、聞いてみた。


「聞きたいです」


「そーよね! 聞きたいよね。そー来なくっちゃ! あーしの大好きなお姉さんって、チョベリグイケメン女子でさぁ~しかも空手が凄く強くて、カッコウ良くてクールなんだけどカァイイところもあって、そこいらのヤロウなんかマジ目じゃね? って感じでぇ~……」


 俺の感覚だと古文に出てもおかしくなさそうな死語を時折交えながらお姉さんの自慢を始め出したが、お姉さんの細かい仕草やら食い物の話題まで初めて何が言いたいのか要領を得ない。


「てゆーことで、残念ながら君とは付き合えないんだぁ~ゴメンねぇ」


「いや……一度も付き合ってください何て言ってないですよ? そもそも初対面ですし……」


 それに、もし付き合ったとしたら、あの勝子と同じ匂いがする神子という女から本気で命を狙われそうな気がする。


「でも、さっきはあーしのオッパイガン見してたジャン?」


「あっ……アレは男の本能とさがと言う奴で……」


「アハハハっ! 否定しないところ、結構好きだよ♪」


 流麗にさっきからマウントを取られっぱなしだったが、肝心な事を聞き忘れていた事を思い出した。


「そうそう。そもそも、何で君は俺を膝枕してたの?」


「あっ……アレはねぇ……さっきの連中の仲間かと思って、つい殴っちゃった系♪」


 流麗は某ケーキ屋のマスコットみたいに悪びれる事も無く舌を出した。


 じゃねーだろ!


 まぁ、怒鳴りたい気持ちを押さえて、膝枕やら上乳チラ見やらキスやら色々美味しい思いをさせて貰ったからチャラにしてあげる俺の心の寛容さに感謝しやがれ。


「さっきの連中と揉めていたって事だろうけど、アイツらはって言っていたよね? 君達勘違いされているんじゃ?」


「いいえ。間違っていないわ」


 流麗はしれっとした顔で嘘を吐いた。


 それは俺が麗のメンバーでなければ恐らく騙されてしまうような表情だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る