第8話 総合ルールでスパーリング
流麗という少女と出会ってから3日後。
明日に新学期を控えた前日の日曜日。
暴走族潰しのチーム、麗のメンバーはリーダーの美夜受麗衣の家に集まり、女子会と言う名の女子同士で茶をシバくのでは無くお互いをシバキ合うスパーリング会を行っていた。
様々な格闘技をバックボーンに持つ麗のメンバーはどんな喧嘩相手にも対応できるようにメンバー間でスパーリングを行うのだ。
最近は最年長のメンバーである
元は床屋と言う麗衣の家を改造してジム風の練習場は八人で一斉に練習をするのは難しいので、最近は後輩達に練習場を使わせる為に、俺は女子会に参加せず俺が通うキックボクシングジムでなるべくスパーリングしていたが、明日から全員新学年という理由にもならない理由で今回は女子会に全員強制参加になっていた。
◇
「「武先輩頑張ってー!」」
黄色い声援と偽物の黄色い声援が俺の背を後押しする。
「恵! チョーシ乗っている下僕に目にもの見せてやれ!」
俺のご主人様……美夜受麗衣はどうやら恵の味方らしい。
「小碓クン! 負けたらお尻触らせて下さい!」
あたかも空気を吸うかのようにセクハラをする声の主は言わずもがな……というか、進学してもお前はそれしか言わんのか!
とにかく目の前のスパーリングに集中する事にした。
安全の為、フルフェイス型のヘッドギアを着け、レガース、腕リスト、そして拳サポーターを嵌め、道着内にインナープロテクターを着けた総合格闘技の使い手である
俺も恵と同様の防具を着けているが、拳サポーターは先日、流麗と言うギャルから貰ったものだ。
いきなり実戦で使うよりはスパーリングで一度試してみたかったのだが、ジムのスパーリングでは基本的に16オンスのグローブしか許可されていないから、女子会で使うしかなかった。
「よーい……開始!」
俺を下僕にした麗衣と共に、俺のもう一人のご主人様である
恵は足を肩幅に開くと、拳サポーターを嵌めた左手を前に、右手を奥に手の位置は目線の少し下に構えると、大きく左足を一歩踏み出した。
これは前後の足幅が狭いキックボクシングの構えと違い、前後の足の幅を大きく開く事によりタックルで足を取られづらい総合格闘技の基本的な構え方だ。
「キックボクシングじゃあ、君の方が強いかも知れないけれど、総合なら負けないよっ!」
恵はこう言うが彼女のキックボクシングのスキル向上も目を見張るものがある。
恵は左足を軸に腰から下を回転させながら後ろ向きになると、回転の反動を利用して勢いよく水平に伏せた拳を振り抜いてきた。
いきなりバックハンドブローかよ!
俺はスウェーバックで躱すが、恵は動きを止めず、もう一回同じ様に腰から下を回転すると軸足にタメを作り、顔面に目掛けて思いっきり勢いの付いた踵が飛んできた。
オイオイ! 今度はバックスピンキックかよ!
ヘッドギアなんぞ着けていてもKOされそうな連打をバックステップし、紙一重で躱した。
ジムで何度もスパーリングをしている仲とは言え、それはアマチュアキックボクシングのルールに合わせたものであり、回転系の攻撃は禁止された中でのスパーリングに過ぎなかった。
これは回転系の打撃が得意な恵本来の姿だ。
恵の本気度は伝わってきたのでこちらも本気を出さなければならないだろう。
俺は反撃に払うようにして左のインローで恵の太腿を打った。
「つうっ!」
レガースを着けているし、それ程効いているとは思えないが、恵は痛そうに声を上げた。
打撃のセンスは高くてもディフェンスに課題がある恵に攻撃を当てるのは然程難しくない。
それでも、総合格闘技を使う恵にミドルキックを使うのはリスキーな為、ローキックとパンチを主体に戦う事にした。
「シュッ! シュッ!」
ローで意識を下に向けさせた隙に立て続けに二発放ったジャブで恵の顔を跳ね上げ、ジャブで上を意識させ、更に俺がインローを叩き込むと、恵はグラついた。
効いてる! チャンスだ!
もう一撃ローキックを叩き込むべく、インローを恵の内股に放つ。
だが、恵は俺の足を左手でキャッチすると、フルフェイスのヘッドギアの奥に光る眼が笑っていた。
コイツ、死んだふりしてやがったのか!
「引っかかったなー!」
恵は自分から見て左側にキャッチした足を投げ出すようにして、俺のバランスを崩すと間髪入れずテイクダウンを奪ってきた。
「痛っ!」
俺を倒した恵はすかさず俺の腹に膝を乗せる、所謂ニーオンザベリーで俺の動きを封じた。
この体勢になれば反撃のしようも無い。
恵が寸止めで何発か俺の顔に鉄槌を入れると勝子がスパーリングを止めた。
◇
ニーオンザベリーもちょっと前の総合ルールのスパーリングで実際に使用しましたが決まると相手を簡単に制圧出来るので驚きました。
いや、自分の体重が増えて重かっただけかも(苦笑)
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