第10話 拳サポーターと麗衣の匂い?

「あっ……ああ。そうだよ」


 流麗と言う女から貰ったのだが、何と無く嫌な予感がして嘘を吐いた。


「そうかしら……クンクン……何か拳サポーターから麗衣ちゃんに似た匂いがするんだけれど……」


「わっ……私もその拳サポーターから麗衣先輩と同じ匂いを感じますうっ!」


 お前は犬かよ! と思ったら後輩でチーム一の巨乳の大友静江おおともしずえまで同じ事を言い出した。


 そういや、チームでは一番良識的な静江も麗衣に関わる事だと少し変態っぽくなる一面があったな。


「いやいや……勝子みたいな変態ならとにかく、メンバーじゃ唯一まともっぽい君までそんな事を言ったらよくないよ……イテっ!」


 勝子の拳が俺の頭に減り込み、しゅううっと音を立てながら熱で湯気が立っていた。


「はっ! もしかしてアンタ! 麗衣ちゃんが使っていた拳サポーターを盗んだんじゃないでしょうね!」


 起きながら寝言をほざきやがった勝子は俺に反論する間すら与えず、強く俺の襟を握って振り回した。


 薄れゆく意識の中、つい最近コイツと似た性格っぽい女から同じような目に遭った事を思い出していた。


「くっ……苦しい! そんなの……麗衣に……聞けば……いい……だろ……」


 息も絶え絶えに俺が辛うじて反論すると、麗衣は俺の拳サポーターを見て指摘した。


「離してやれ。勝子。あたしが昔使っていた拳サポとは一寸違うな」


「そうなんだー。てっきり変態武が盗んだ拳サポで麗衣ちゃんの臭いをクンカクンカしているのかと思ったよ」


 麗衣に注意された勝子は俺を小さな子が壊れて興味が無くなった玩具の様に投げ捨てた。


「お前みたいなド変態じゃあるまいし、そんな事するかよ……ぶっ!」


 俺の言葉に対する超高速リターンカウンターで放たれた理不尽大魔王の左フックは俺の首を切らんばかりの勢いで捩じった。


「あたしが昔使っていた拳サポは手首にマジックテープ巻いていただろ? これは新式の拳サポだからマジックテープがねーし、喧嘩の時直ぐに嵌められるからオープンフィンガーグローブより便利そうだな」


 麗衣は興味深そうに拳サポーターをまじまじと眺めた。


「そうだよね……それに、以前は武のパンチ力があまり無かったからダメージを優先して簡易バンテージを薦めたけれど、今のパンチ力なら拳を守る事を優先して最低限拳サポーターぐらい使った方が良いかもね」


 麗衣のお陰で冷静さを取り戻した勝子も俺の拳サポをみて分析していた。


 単純に相手へ与えるダメージを考えると


 オープンフィンガーグローブ < 拳サポーター < 簡易バンテージ


 と言ったところだが、拳の保護と言う面を考慮すると


 簡易バンテージ < 拳サポーター < オープンフィンガーグローブ


 と言ったところだろうか?


 まぁ、元々簡易バンテージはグローブを嵌める事が前提だから、防御力が劣るのは当たり前の事だが。


 与えられるダメージと防御力の双方を考慮すると拳サポーターはバランスが取れているかも知れない。


 何と言っても急な喧嘩時でもすぐ嵌められるのは大きなメリットだ。


 因みに勝子はオープンフィンガーグローブの下に薄手の簡易バンテージを嵌めて、ハードパンチを放つその拳を少しでも保護しているらしい。


「でも、折角勝子がくれた簡易バンテージを使わなくなるけど、良いのかな?」


「良いわよ。所詮は消耗品だからね。そろそろオープンフィンガーグローブでも薦めようかと思っていた頃だから、拳サポでも便利そうなヤツだし、丁度良いんじゃない?」


「でも、拳サポから女の子の匂いがした理由は解りませんね……もしかして、彼女さんでも出来たんですかぁ~?」


 ショートカットの黒髪に赤いメッシュを入れた、ぐりぐりとした目が一際可愛い後輩一の美少女……いや、偽美少女の吾妻香月あづまかづきは何気なく波紋を広げやがった。


「まっ……まさか、童貞を貫き通して将来立派な魔法使いに成る予定の武に彼女だとぉ!」


「ウソっ! 生涯童貞を絵に描いた様な武に彼女なんて……」


「へー、おめでとう武君♪ 麗衣さんの事は心配しないで全部私に任せてね♪」


「マジっすか……小碓クンは皮つきチェリーという可愛らしいあだ名が似合っていたのに……」


「しっ……信じられません! 武先輩不潔ですぅ!」


「えっと……武先輩、おめでとうございます」


 ……皆何気に酷くない?


「良いさ良いさ。皆がどんな風に思っているのかよーく解ったから」


 恵に完敗して只でさえ気落ちしていた俺は反論する元気すら無くなっていた。

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