第12話 偽麗
「……もしかして、一人は姫野先輩だって言いたいのですか?」
「そっ……そう疑われている。それに一人は美夜受そっくりだと聞いた。それぞれの使い手と特徴からすると麗の仕業じゃねーかと疑われているんだ」
話を聞くだけではキックボクサーの麗衣、ボクサーの勝子、日本拳法の使い手である姫野先輩という麗オリジナルメンバーを想像させる。
……いや、待てよ? 麗衣にそっくりで格闘技も使う奴って……まさか?
「亮磨先輩。一つ確認したいんですけど、麗衣そっくりな奴って何を使っていましたか?」
「美夜受そっくりな奴は……ボクシングと聞いた。あっ!」
余り頭が良いとは言えない亮磨先輩も察したようだ。
「麗衣はボクシングも出来なくは無いですが、ムエタイスタイルが基本ですから」
ボクシングの使い手で麗衣そっくりな奴と言えば、恐らく先日俺に拳サポをくれた流麗という少女の事だろう。
確かにあの子は不良達と揉めていたし、事情を知らぬ俺は単に不良達が悪いのかと思い流麗を助けてしまったが、寧ろ流麗達が不良達に喧嘩を売っていたという事か。
「でも、俺とやった時、最初はボクシングスタイルで挑んできただろ? 雑魚相手ならボクシングで充分かと思っているんじゃねーのか?」
「その可能性もありますが、もう一人はキックの使い手なんですよね? 麗には純粋なキックの使い手は俺と麗衣しか居ませんよ? だから、俺ら以外のキックの使い手が居る時点で麗では無い事が解りますよね?」
本当は恵が総合格闘技を使うし、キックの試合にも出ているからキックの使い手とも言えなくも無いが、少しでも認識のズレがあれば指摘すべきだ。
「お前が女装していたという線は……」
「馬鹿言わないでください!」
吾妻君じゃあるまいしそんな事するかよ!
「わっ。ワリぃな……だが、織戸橘そっくりな奴というのも気になる」
亮磨先輩としたら一番気にかかるのはその事だろうな。
それについても少し考えればわかる様な事だと思うが……。
俺は冷静さを無くして居る先輩にも分る様に話を進めた。
「元・
「ああ、3日前とか聞いたかな……」
「それなら姫野先輩は引っ越した後で、もう東京に居ませんよ」
姫野先輩は卒業旅行が終わった後、すぐに引っ越したので3日前は既に新居で大学生活の準備をしている頃だ。
「ああっ! 確かにそうだな! ……ったく、冷や冷やさせやがって……」
亮磨先輩が心底安堵した様子が電話越しにも伝わって来た。
まぁ、こんな事は俺に聞かなくてもすぐに分かりそうな事だが、亮磨先輩どんだけ頭悪いんだよ……それとも姫野先輩に対する愛が強すぎて混乱していたのか?
「それに、多分ソイツ等、俺も会った事あります。確かに似ているんですが麗衣とは完全に別人です」
説明をしているうちに俺にも段々話が見えてきた。
彼女らは偽麗とでも言うべきだろうか?
流麗というギャルは麗と同じ様に格闘技経験者が集まり、目的は不明だが麗を称して不良達を無差別に攻撃している様だ。
「どうやら心当たりがあるどころじゃなさそうだな……ソイツ等とお前、如何いう関係だ?」
「俺は被害者ですね」
あの時は俺を不良の仲間と勘違いして不意打ちを掛けて来て失神させられたのだろう。
まぁ、失神させられた代わりに拳サポーターを貰ったからそれはそれで良いが。
「先輩は彼女達をどうするつもりですか?」
「情けない話だが、俺に潰してくれという話も上がって来ている……俺は族も学校も卒業した一般人だって言うのにな……」
でも、頼まれたら仲間想いの亮磨先輩は断れないだろうな。
流麗という少女も相当強いボクサーの様だが、プロボクサーの亮磨先輩には敵うべくもない。
自業自得とは言え、知り合ったばかりの女の子が潰されてしまうのも可哀そうな気がするし、亮磨先輩を昔の亮磨先輩に戻すわけにもいかない。
「分かりました。麗のフリをしてこれ以上暴れられても迷惑ですからねぇ……俺が話をつけてきますよ」
気が進まないが、慣れない説得役を買って出る事にした。
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