第15話 停学と弁償
俺達が片付けをしている間に入学式兼始業式は校庭で行われ、今度こそ恙無く終了したらしいが、その後、麗衣は生活指導室で1時間にも及ぶ説教を受けていた。
「停学二週間と体育館で破損した扉の修理代を払えだとよ……ったく、ジムに行く金が無くなっちまうな」
ようやく解放された麗衣は二年生初日から停学を喰らっていた。
「停学はまぁ練習時間が増えるから良いんだけどよぉ、ジムに行く金が無くなったら本末転倒だよな……
妃美さんとは俺達が通うActive-Networkジムの会長の娘でジム所属団体の女子スーパーバンタム級王者であり、トレーナーでもある
「私だけじゃなくてメイントレーナーも辞めるらしいからボクシングクラスが無くなりそうだし、入門クラスとエアロビキック*のクラスが出来る予定らしいからね」
エアロビキックとは、かつて流行した某ブートキャンプの様にエアロビの様な音楽に合わせてキックの動作で有酸素運動を行うクラスであり、特に女性には人気がある。
「もうジムの昇級審査で1級取ったから講習受ければあたしもトレーナーに成れるんだよな。只、自分の練習時間が減っちまうのは惜しいよなぁ……」
「人に教えれば勉強する事も多いだろうし自分も強くなれるんじゃないのかな?」
「そう言う面もあるとは思うけどよぉ……エアロビキック教えて強くなれると思うか?」
「確かにね……でも、前から麗衣ってトレーナーになりたがっていたよね? 良い機会じゃないか」
「そうだけどよぉ……もっと強く成ってからやろうと思っていたからな。まだまだ早くねーか?」
ジムが所属する団体では空手に似た独自の昇級制度があり、1級を取得するとプロテストを受ける権利とトレーナーの講習を受ける権利を得る。
さっき麗衣が言っていたように講習を受ければトレーナーになる事も可能なのだ。
「アマチュアの選手でトレーナーの人だって珍しくないし、Aクラス3階級優勝なら立派な功績じゃないの?」
所属する団体のアマチュアキックボクシングの大会では階級の他、ビキナーズとA~C級のクラスに分かれ、中でもAクラスはプロ予備軍であり、そのAクラスで3階級優勝した麗衣は短いラウンドであれば、プロ相手でも下位ランカー程度ならば寄せ付けない実力を持つ。
「いや……、3階級優勝はたまたま巡り合わせが良くて強いヤツと当たってねーだけだ。それに弟のタケルの仇もまだ取れてねーのにトレーナーに落ち着くのはまだ早いよな……」
何時になくネガティブな麗衣を慰める様に勝子が口を挟んだ。
「違うよ勝子ちゃん。1階級ならとにかく、3階級優勝は単に巡り合わせが良いってだけじゃ説明がつかないよ? もっと自信を持って良いんだよ」
そして勝子が麗衣の手を取ると、真っすぐ麗衣の瞳を見つめながら言った。
「それにタケル君の敵討ちだって私が……ううん。私達、麗のメンバーが全力で支えるよ。だから、遠慮しないで、私達を頼って。トレーナーやりたいって前から言っていたんだし、やりたい事をやって良いんだよ? 私達はついていくだけだから」
「勝子……」
「私のサブトレーナーの経験も役に立つと思うから、遠慮なく聞いてね」
珍しく勝子がまともな事を言っていた。
明日どこぞの国から核ミサイルでも振って来るんじゃないだろうか?
「ありがとな。勝子。今度妃美さんに頼んでみるわ」
「うん。頑張ってね」
良い話の流れで腰を折りそうだが、一つ肝心な事を聞き忘れていた。
◇
*エアロビキックは当方の造語ですが、文中の表記と同じような内容のクラスはよくあります。フィットネスクラブや格闘技のジムにより名称が異なります。
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