第14話 後始末
幸い、怪我人は誰も居なかったが文字通り嵐が過ぎ去った後の様な惨状に陥った体育館は入学式どころの騒ぎではなくなっていた。
「あははっ! 私の母校も荒れていましたけど、入学式にバイクで特攻する子なんて流石に居ませんでしたね~!」
唖然とした空気の中、衣通美鈴先生は腹を抱えながら一人愉快そうに笑っていた。
この人やっぱり俺達と半グレの事務所に乗り込んでいった時からそうだったけれど、頭のねじがぶっ飛んでいるわ……。
麗衣の仲間である俺と勝子ですらショックを受けて居るのに、美鈴先生だけは豪胆と言うかKYというか……。
そんなこんなで、当然の事ながら入学式は中止になった。
「とほほ……何で俺までこんな事させられているんだ?」
無残にも、くの字に折れ曲がり、取り付けるのが不可能になったドアを外に運び出しながら俺はぼやいた。
「文句言わないの! 警察沙汰にしたくなかったらさっさと片付けて証拠隠滅するしかないじゃない!」
新入生の親御さんたちが事件だ、通報しろ! 等と騒ぐ中、複数の目撃者により犯人が麗衣だとすぐにバレてしまった。
そこで勝子は一計を案じて俺と勝子、恵の三人で体育館の片付けをすると教師に提案し、警察など呼ばれて現場検証を行われる前に証拠となりそうなものを隠ぺいしてしまう事にした。
……いや、このぶっ壊れたドアは隠しようが無いだろ……。
幸い、
「イテテテッ! 美鈴ちゃん! はーなーせよおっ!」
美鈴先生に右肘を返され、極められた右手首を背に廻され、腕やら顔やら傷と泥で汚れ切った麗衣が痛そうな声を上げていた。
「駄目よ。こんな事したくないけど、他の先生達じゃ貴女を取り押さえられないからねぇ……」
バイクで体育館に特攻した麗衣はとにかく、美鈴先生も服がボロボロになっているあたり、俺達が見ていない所でかなり激しくやり合ったのかも知れない。
流石の麗衣も日本拳法と少林寺拳法の使い手である美鈴先生には敵わないらしい。
いやいや、そうだとしてもアマチュアキック女子軽量級最強クラスの麗衣を取り押さえる何て美鈴先生強すぎだろ……。
「もう一人の子は何処へ逃げたの?」
「知らねーよ! あのクソビッチは人のバンディットお釈迦にしておいて一人でトンズラしやがった!」
クソビッチって流麗の事だよな?
やっぱり二人は知り合いだったのか?
「はぁ……流石に二人を一度に捕まえるのは無理よね。まぁ、退学を避けるには美夜受さんに二人分頑張ってもらうしかないわね」
美鈴先生は小さく溜息を吐いた。
「コラあっ! 美夜受! またお前かあっ!」
体育教師の土岐は麗衣を見るなり、激しく怒鳴りつけた。
「いっつもいっつも問題ばかり起こしやがって! 今度こそ退学させてやる! 覚悟しておけっ!」
「そーすか? 今回の件は確かにあたしがワリィかもですけど、それ以外に何か学校に迷惑をかけるような事しましたっけ?」
「そっ……それは授業サボったり、やたらスカートを短くしたり風紀を乱しているだろ!」
教師関係者で麗衣が暴走族潰しをしている事は美鈴先生しか知らない筈だ。
「授業サボってるのは試合が近い時だけっスヨ。それに自分で言うのも何ですが、成績はそんなに悪く無いですよ?」
悪くない処か、一年生の時、最後に行われた期末テストはキックの試合の為に練習をしながらも学年でトップテン入りしている。
恐らく麗衣がキックをしていなかったらベスト3以内に入るんじゃないかとも噂されている。
因みに俺の隣に居る最強の女にして理不尽の女王、
「せっ……成績はとにかく、風紀を乱しているのは本当だろうが!」
「るせーなぁ……あたしがヤニでも吸っているところでも見た事あんのか? 健全なフリしてコソコソ陰でヤニ吸っている連中がどんだけ多いのか知らねーの? あんなモンを吸っている連中に比べりゃ、スカートの丈が短いぐらい何て事ねーだろ」
その通り!
スカートの丈が短くて一寸動くとパンツが見えるぐらい何が悪いんだ!
「百歩譲ってスカート短くて風紀を乱していたとして、それが退学に繋がるほど問題なの? 一体何処の国の将軍様だよなって話だ……イテテテッ!」
麗衣の勢いに土岐が押されていたところ、美鈴先生は極めた腕の力でも強めたのか?
麗衣が悲鳴を上げた。
「ゴメンナサイ土岐先生。この子には後できつく言っておきますから、取りあえず責任を取らせて片付けをさせます」
「オッホン! そうですか……。全く、衣通先生が甘やかすから生徒達がつけあがるんですよ」
「そうでしょうかね? 少なくても他の先生はこの子に立ち関節技を掛けたりできませんよね? だから、この子の事は私に任せて下さい」
言外に私程厳しい態度の教師は居ないと言っていた。
美鈴先生としては他の教師に任せて、麗衣が下手に反抗でもすれば本当に退学させられかねないから、美鈴先生なりの気遣いなのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます