第20話 保護者増量キャンペーン。

 と、いうわけで。

 神殿の外まで出てきたのは良いのだけれど・・・これはどう収拾すればいいのやら。


「ほら、わたしはちゃんとかえってきたんだから、だいじょーぶだよ?ナーさん」


「うぅっ。神殿なんてヤバいどごろに一人で入っちゃったがら、ソフィアぢゃんに゛、何かあったらどうじようっでぇ。・・・ごわがっだぁー」


 私は、自分のお腹にしがみついて泣きじゃくるナーさんの頭を撫でながら、遠い目をしていた。

 いやだって、幼女にしがみついて号泣する成人男性ってさ、絵面がね?酷いよね。


「はいはい。ナーさんのこと、おいていっちゃってごめんね?・・・でも、かっこいいがこんなところでないてたら、みんなびっくりしちゃうよ?だから、ほら。・・・なかないで?ナーさん」


 まるで幼い子供みたいなナーさん。

 これじゃあ、どっちが子供だか分からないなぁ。

 それから暫くの間、私はあの手この手でナーさんを宥めすかした。


 努力の甲斐あって泣き止んでくれたのは良いんだけど、今度は私を抱き上げたまま離してくれなくなってしまった。


 いやほんと、どうしてこうなった?


 自分で歩くと主張しても、転んだら危ないし離すといなくなりそうだから嫌だと一蹴される。


 これは大変だ。

 普通だったナーさんにまで、リアムの過保護が移ってしまった!


「・・・かほごはかんせんするのか?」


「何か言った?ソフィアちゃん」


「いーえ。ただのひとりごとですぅ」


 ナーさんの手によって詰所まで直送される道中、私は精一杯頬を膨らませて不満をアピールしていたけど、効果はなかった。


 折角だから、この辺りも観光してみたかったのに。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ソフィアちゃん、神殿の中ってどうなってたんですか?」


「えぇっと・・・とかとかがびっしりでぇ、あともいっぱいでした!」


「うへぇ。よくそんなところに入る気になりましたねぇ。・・・危ないから、もうそんなところに行っちゃだめっすよ」


「・・・そろそろ下ろしてください、ナーさん」


 私はナーさんの膝の上でジタバタと藻掻いたけれど、ナーさんはびくともしなかった。

 それどころか、頭を撫でまわされる始末。

 バルドさんの生温い視線が・・・痛いよぉ!


「そんなこと言わずに。はい、あーん。・・・最近話題のお店のチョコレートです。美味しいですか?」


 チョコレート、この世界にもあったとは。

 甘味の抗いがたい誘惑に、私は頭を撫でまわされながら、大人しく口を開ける。


「は?!おまっ、それ、ヴィーナスじゃねぇか?!王妃のお気に入り、何時間並んだんだよ・・・」


 あ、これお高いチョコの味!

 コンビニで買ってたチョコよりおいしいかも。

 滑らかな舌触りで、甘すぎない。

 口の中でするっと溶けるやつ!


「・・・おいしい。ナーさん、もーいっこたべたーい!」


 チョコの力は偉大。

 ナーさんの膝の上に拘束されていることも、チョコが食べられるなら許容できる。


「もちろんっすよ!ソフィアちゃんのためな」

「バルド、仕事中だろ。ナハト、邪魔するなら帰れ。ソフィアを放せ。」


 口をはさんだリアムは、額に青筋を浮かべて絶対零度な冷気を発している。

 冷気にてられたのか、頭を撫でまわしていたナーさんの手が、ぴたりと動かなくなった。


 うわーお。ブリザード。

 冷汗がすごいよ?ナーさん。


 リアムのおかげ?で私はナーさんの膝から解放された。

 とはいえ、それよりもチョコが食べたかった。


 私はナーさんが持つチョコの箱を見つめた後、思いっきりリアムを睨んだ。

 リアムめ、食べ物の恨みは怖いんだぞ?


「くっくっくっ。・・・まさかウチの副団長様が幼女相手に妬くなんてなぁ。」


 不機嫌なリアムと、すっかりソフィアに攻略されているナハトを眺めながら、バルドは愉快そうに笑った。

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幼女なOLは異世界で自由を掴み取る。 閑谷 璃緒 @RIO_S

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