第18話 久しぶりです!

 小指位の太さの蔦を両手で掴み、ぐいぐいと下に引っ張ってみれば、黒っぽく薄汚れた彫刻があらわになる。

 どこか見覚えのあるような長髪の美女を象った彫刻に、私は手を伸ばさずにはいられなかった。


「リーチェさま・・・あいにきましたよ」


 リーチェ様らしき彫刻に指先が触れた瞬間、辺りがまばゆい光を放つ。


(え?ちょっと待って!?・・・目が痛い!目潰しなの?!バ〇ス!?)


 混乱する私をよそに、私の視界を奪い尽くしていた光は徐々に治まっていった。

 何度か瞬きを繰り返し、視力を回復させた私は首をかしげる。


 目に映るのは、きらきらと輝くステンドグラスに、毛足の長い赤の絨毯、埃一つない白い石造りの内装。


(あれ?神殿が綺麗になった?)


「いやいやいや、そんな訳。・・・ここどこ?」


「いらっしゃい、ソフィア。・・・会いたかったわ」


 突如出現したリーチェ様に、私はうわぁっと頓狂な声を上げる。

 リーチェ様は不服そうな顔をしたけれど、私は無罪だ。

 突然目の前に誰かが現れたら、私じゃなくてもびっくりすると思う。


「えっと・・・私も、会いたかったです?」


「どうして疑問形なのよ?・・・まぁいいわ。貴女が元気そうでよかった」


 にっこりと笑うリーチェ様は、とても優しい顔をしていた。

 リーチェ様の笑顔を見ているだけで、突然の連続に暴走していた心臓が静まっていくのを感じた。


「リーチェ様、教えて欲しいことがあるんですが・・・」


 どうして神殿がこんなにも荒れているのかだとか、ここは何なのかだとか、訊きたいことは山ほどあったけど・・・。

 脳裏に浮かんだのは、私の記憶について。


「いいわよ。できる限り答えてあげる」


「じゃあ、あの・・・私の記憶なんですが、どうして消えてしまったんでしょう。スマホとか料理のレシピとか、そんな物のことはちゃんと覚えているのに、自分のこととか家族や友だちのこととかは全く思い出せなくて・・・。なんで、ですか?」

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