第14話 神の叡智の保護者

「・・・寝たか」


 リアムは、腕の中ですやすやと寝息を立てる小さな頭をそっと撫でた。


 見た目は二、三歳の幼女だというのに、彼女は言葉遣い佇まい共に年不相応に整っている。


 年相応に泣き、食べ物に目を輝かせる。

 かと思えば、時折寂しく遠くを見つめるような、大人びた表情を見せる。


 本当に不思議な子供だ。


 記憶が無いというのに、取り乱しもせず冷静に振る舞う彼女は、とても理知的で大人だと思った。


 ソフィア――神の叡智えいち


 安直かもしれないが、賢い彼女にはぴったりな名前だと思う。

 まだ幼いソフィアは、これから様々な知識を吸収し、更に賢くなってゆくのだろう。


 それを一番傍で見守ってやるのも、悪くない。


「――ふっ。俺らしくないな、早くも保護者気取りかよ」


 口元を皮肉気に歪めて呟く。


 女も子供も嫌いだったのに、俺も随分と丸くなったものだ。




 ――だが、まあ。


 もしソフィアに保護者が名乗り出なかったらその時は。


 その時は、俺がこの子供の保護者になってやっても良いと思う。




「ぃあむぅ・・・うぅ・・・ぉにぎりぃ・・・おなか・・・いっぱいぃ・・・りあむ・・・」


 むにゃむにゃと口を動かして、だらしなく笑みを浮かべるソフィア。

 起きたのかと思ったが、どうやらただの寝言らしい。


 おにぎり?とは何なのだろう。・・・食べ物か?


「ははっ。何だソフィア、夢の中でも食事をしているのか?」


 返事は無いと分かっていても思わず話し掛けてしまう。


 ――夢でも食事とは、全く暢気のんき餓鬼がきだ。


 ソフィアにつられたのか、欠伸が零れる。


 腕の中の温もりが心地いい。


 それにしても子供――人は、こんなにも温かなものなのか。


 リアムは、ゆっくりとやってきた眠気に身を任せるように、目を瞑った。


「・・・おやすみ、ソフィア」



 月明かりに包まれた室内には、二人分の寝息が静かに響いていた。

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