第9話 好きなだけ泣けば良い。

 ――きゅるきゅるきゅる・・・。


 音の発生源は私のお腹。


「あはは・・・」


 反射的に笑って誤魔化すけど、うぅ~恥ずかしい。


 思えば、この世界に来てから(だから、一日くらい?)は何も食べていなかった。


 ・・・最後に食べたのは・・・おにぎり?だったっけ。


 なんか、とても嬉しかったような気も・・・するんだけど・・・思い出せないや。


 う~ん。モヤモヤする!


「・・・い・・・ア?・・・おい、ソフィア?大丈夫か?」


 いつの間にか眼前わずか5センチメートルに副団長さんの顔。


「うわぁっ?!」


 ――ドテッ


 驚き過ぎて尻餅をついてしまった。


 イテテ・・・。


 彼の顔は整い過ぎていて心臓に悪い。


「おー、悪い。驚かせるつもりはなかったのだが・・・大丈・・・どこか、痛むのか?」


 副団長さん、とっても心配そうな顔をしている。


 ちょっと尻餅ついたくらい、別にどうってことないのに・・・過保護だなぁ。


「だいじょうぶ、です」


 って立ち上がろうとしたら、ひょいっと片手で抱き上げられた。


「大丈夫じゃないだろう?だって、ほら。・・・泣いている」


 私の目許を拭った彼の指先は、確かに光っていた。


「・・・あれ?・・・おかしいなぁ~。だってわたし、どこもいたくなんかない、のに」


 ただただ呆然とする私を、副団長さんはきつく抱き締める。

 突然のことに私は、抵抗することも忘れてされるがままになっていた。


 彼はそのまま、私の背を片手でポンポンと叩く。


「思いっきり泣いても良いんだ。・・・ソフィア、お前はきっと異常なほどに賢い子供なのだろう。・・・でもだからと言って、遠慮なんてしなくていいんだよ」


 彼の低く落ち着いた声が、私の心に沁み込んでゆく。


「記憶を失って不安を感じるのは当たり前だ。大人だって、俺だって不安になる。・・・だから、気の弛みと共にそういった感情が溢れ出てくるのは、当然のことだ。ソフィアが弱いわけじゃない。・・・我慢するな。俺の前では、好きなだけ泣けば良い」


『今まで良く頑張った』


 その言葉が、私の涙腺にとどめを刺した。


 砕けた一人称は、彼の言葉が本心であることを伝えてくる。


 副団長さんの優しさに、私の強張こわばった心がゆっくりと溶かされてゆくのが分かった。


(そっか・・・私、泣いて良いんだね)


 ボロボロと涙を垂れ流しにする私を、彼は静かに撫で続けた。




 それからしばらくして、ようやく泣き止んだ私が恥ずかしさのあまり下ろしてもらおうと暴れたり、にもかかわらず最後まで下ろしてもらえず諦めたりと、一騒動あったのだけど・・・。


 ――それはまた、別のお話。

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