第8話 名前をください!

「――・・・」


 西洋風の豪奢ごうしゃな屋敷。


 精密な作りのシャンデリアが輝く一室には、現在重々しい空気が充満していた。


「・・・あ、あのー・・・だいじょうぶですか?ふくだんちょうさん」


 物珍し気に室内をキョロキョロと見まわしつつ、私は副団長さんに声を掛けた。


「あぁ。問題な・・・くはないが、私は大丈夫だ」


 はぁ。と、彼は息を吐き出しつつ言った。


「・・・貴女は本当に名前を覚えていないのか?」


「はい。まったく、おもいだせないんです」


 副団長さんの口から、再び溜息が。

 どうやらこの空気の原因は私だったようだ。


「あー・・・名前、無いと困る・・・よな」


 そんなに気まずそうに訊かれると、なんか申し訳なくなってくるからやめて欲しい。


「そう、ですね」


 イケメンの成人男性を困らせる幼女(仮)って、完璧悪女じゃん。傍から見れば凄い絵面だろうなー。不思議と罪悪感が・・・。


「名前、希望はあるか?」


「・・・とくには。・・・じゃあ、ふくだんちょうさんがつけてください!」


「は――――ぁ。だよなー。そうなるよな?」


 だから、嫌だったんだ。と副団長さんは困り顔。


 でも諦めて欲しい。私はきっとネーミングセンスが無い。というか、この世界の一般的な名前を知らない。

 やらかす気しかしないから絶対嫌!


 拒否はさせないぞ!って目力で訴えかけてみる。


「キラッキラした目で見てるとこ悪いけど、俺・・・私にネーミングセンスを期待するなよ?」


 あくまで本名思い出すまでの仮の名前だからな?と言いつつ、副団長さんは目を瞑って何やら考え出した。





 待つこと数分後、ゆっくりと目を開いた彼に呼ばれた名は


「ソフィア」


 だった。


「・・・そふぃあ」


「そうだ。名前、これで良いか?」


「はい!ありがとうございます!かわいいなまえ!」


 ソフィアって童話のお姫様にいそう!いいねー!可愛い!


 ――中身OLのくせに少女思考?


 うるさいわっ!


 今の私は少女通り越して幼女ですー!可愛い名前にテンション上がっても良いんですぅ!


「ふふふっ・・・そっふぃあ、そーふぃあ、そーふぃーあーっ♪・・・」


 幼い子供特有の、独特な節回しの即興ソングが響き渡る。


「・・・お、おう。気に入ったなら・・・良かった・・・な」


「はい!」


 だからって、名前で歌いながら小躍りするのはやり過ぎたかも・・・。





 ――うわぁぁぁぁぁぁぁあ!


 副団長さん、ドン引きしてるー!





 あはは。






 詰んだわ。









 その後、彼の眼差しが温かなものに変わったことに、ソフィアは気付かない。

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