第3話 プロローグ(2)

「さて・・・そんなことより、眷属さん?に怪我はありませんでしたか?」


「・・・えぇ。あの子はぴんぴんしてますよ。ただ、いささか反省が足りていないようなので、ちょっとした罰を課そうかと」


 ふふふっと彼女は黒い笑みを浮かべた。


「・・・罰・・・」


「仕方が無いでしょ?あの子、お説教の直後に遊びに行こうとするんですもの。今回ばかりはきちんと反省させます」


「やんちゃなんですね」


 なるほど。眷属さんは今年小3になった甥っ子みたいな感じなのだろう。やんちゃ盛りで手がかかるんだよなぁ。可愛いけどね。


「近々謝罪に行かせます」


「あの、そこまでして頂かなくてm」


「行かせますね?」


 ・・・不思議だなぁ。女神様は慈愛に満ちた穏やかな笑みを浮かべているというのに、何とも形容しがたい圧を感じるなんて。


 きっと気のせい・・・じゃないっ!この女神様怖い!・・・絶対怒らせちゃ駄目な奴だー!


 分かりました。と渋々頷くと、彼女は満足そうに笑った。


 単なる主従ではあり得ない親子のようなセリフに、彼女らの関係性が見えた気がした。


「それはそうとして、話がれてしまいましたね。・・・トモコ、貴女はと言いましたが、貴女が理想とするのはどのような人生なのです?」


 ごくごく自然なトーンで発された疑問。


 しかし、私は慎重に考える。


 理想の人生。


 それは――


「分かりません」


 そう。これが私の答え。


「どうして?」


 淡々と聞いてくる女神様。先程までとはまるで別人のようだ。彼女の透き通った瞳は、誤魔化しのない真実を求めていた。


「私は、胸を張って人に誇れる人生こそが正しいのだと、ずっと思っていました。でも、分からないんです。お金持ちになるのも、趣味に生きるのも、人の為に生きるのも、どこか違う気がする。・・・私はきっと、お金があって空しくなるだけだし、趣味に生きるほどの情熱もないし。・・・人の為に生きるとか、立派だけど最早自分の人生ですらないし。・・・私には、分かりません」


「正解よ」


 彼女はふと柔和な笑みを浮かべた。


「・・・え?せいかい?」


「そう。貴女たち人間の言う理想の人生なんて、どこにも存在しないもの」

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